舌の色はピンク
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2020年04月11日(土) 映画ベスト50 [25-6]

この日記サービスenpitsuには字数制限があり、一記事にはまとめられませんでした。
かつ一日一記事につき、日付を先取りする格好に。


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25.父、帰る [アンドレイ・ズビャギンツェフ]




十数年ぶりに家へ帰ってきた、写真でしか知らなかった父。
父は言葉少なに唐突に、二人の息子を車での旅行へと誘う。
爽快感ゼロ、どころか莫大にマイナスのロードムービー。
もう勘弁してくれと言いたくなる、精神を追い詰めてやまない場面の連続。
愛の話といえば愛の話。
そして嫌になるほど映像は美麗。
 

24.カルネ[ギャスパー・ノエ]




この手のショッキングな映画に親しんでいなかった当時は、過激さばかりに精神を引っ張られてしまったけれど、セリフまわしがすばらしい。
おっさんの体型とかしぐさも、まさに肉屋のおっさん、という感じで、彼のふるう暴力をはじめとした衝動には映像的な説得力がある。
部屋や町並みもこの映画にぴったりで、映画を構成する諸要素の一体感が心地いい。
わずか40分の短編。
思い返せば僕にとってはこの映画がフランス映画の入り口だったかもしれない。 
全然フランス映画のスタンダードじゃないけれど、おかげさまでごく自然に脱ハリウッドさせてもらった。


23.気狂いピエロ[ジャン・リュック・ゴダール]




ゴダールはもうずいぶん長いこと観ていない。
まだ自分なりの映画の鑑賞法が覚束ないころに観たきりで、以降はもったいないからと敬遠してきている。
だから今作も鑑賞してから久しく、内容らしき内容をろくに覚えていない。
観ている最中の興奮だけは覚えている。詩情の刺激が強すぎて鼻血ブー寸前だった。
早く観直したい。観直したらおそらく順位がグンと上がる。


22.時計じかけのオレンジ[スタンリー・キューブリック]




言わずとしれた快作、世間からサブカル御用達と揶揄されようとも作品に傷は全くつきようがない。
開幕2秒からもうずっと見入りっぱなし。
アイデアの質と量がすさまじい。仲間を川へ落とす場面ひとつとっても忘れがたい演出を用意している。
なんだかこの映画はただごとじゃないぞ、と身構えさせられた初見の衝撃はきっともう得られないし、 たしかに大人としてよりかは十代で履修しておくべき刺激物なんだけれど、間違いなくいま観直してもビシバシ刺激いただけるだろうな。


21.ポンヌフの恋人[レオス・カラックス]




パリに実在するポンヌフ橋を舞台にした恋愛劇、とまとめてしまっては、この映画の妙味がうすまってしまう。
「ボーイミーツガール」や「汚れた血」に比べればなりを潜めているにせよ、ところどころに配置されたカラックスらしい映像遊びは十分堪能できる。
この人にはパリがこう見えているのかと、幻想の恩恵にあずかった。
有名な花火のシーンには涙が出る。
ドニ・ラヴァンという役者がこの世にいること、よくぞ役者でいてくれたこと、この映画に出てくれたこと、いちいち一切に感謝したくなる。


20.汚れた血[レオス・カラックス]




愛のないセックスによって発症する病気が蔓延しているパリで男と女が出会う。
どの場面をとってもほとんど見どころしかない映画。
そしてジュリエット・ビノシュの美のすさまじさ。
女優さんが綺麗だあなんていって、そんなものを感想にしては映画に失礼なはずなのだが、ここまで美を体現していると触れないわけにはいかない。
おそらく彼女が出演した映画は20本以上観てきている。そのなかでも群を抜いている。
絵画的な美とは一線を画する。
フレームの中で動き、フレームを躍動させて、秒を追うごとに美しくなるジュリエット・ビノシュ。
かといってその姿に見惚れるばかりにはさせておかない。
決して映画そのものをさまたげたりはしない美しさがどこまでもとうとい。
 
 

19.悪いやつほどよく眠る[黒澤明]




黒澤で一番好き。
汚職事件をめぐる現代ドラマで、主演の三船敏郎は堅物メガネ。
脚本が際立って面白く、事態はハイスピードに進展していく。
いわゆる胸糞展開ではあるはずであるのに、誰も彼も元気で快活だから爽快感がある。
ご多分に漏れず、僕も黒澤を観た後には役者の口真似をしたくなり、この映画は大体1か月くらい影響が抜けなかった。
 


18.CLIMAX[ギャスパー・ノエ]




ダンサー二十数人が集められたパーティで、誰かが酒にドラッグを混入させたところから、狂乱に一切の歯止めがかからなくなってゆくダンスフロア。
ガンガン鳴り響く音楽に、脳天をくすぐってくる極彩色、鑑賞者の頭をもトリップさせてやろうという企図は、きっとものの見事に成功している。
「アレックス」の完成度をあえて切り崩したような「エンター・ザ・ボイド」で示した指向性、嗜好性、志向性を、さらに煮詰めきったその先にこの映画がある。
もう本当に好きなことやったれっていう監督の独尊による毒牙のきらめきを感じる。
映画の面白さ自体よりいっそ、その突っ走りかたに勇気をもらった。
上映時間の半分くらいは地獄絵図なので注意。
おまえほんとふざけんなよって監督に苦情したくなるストレスフル映画。


17.夏の遊び[イングマール・ベルイマン]




スウェーデンの大家、ベルイマンの初期作品。
白黒映画なのに色味を感じられるほど体感的で鮮やかな映像美は圧巻。
男女仲の描写が小説的でしみじみ染み渡る。


16.別離[アスガル・ファルハーディー]




いざ離婚しようと話がまとまりつつある夫婦を主軸に、ガチコチに入り組んだ人間模様が描かれだす陰鬱イラン映画。
心理、真理、審理、倫理の散弾銃。
「利害関係の調整」という観点からみると、その関係性の仕立て方が絶妙で、ただでさえ正答が出せない難題に、人物たちによる虚偽やすれ違いや組み込まれ、ストレスフル。
決して向き合いたくない、人間生活の嫌な部分をあぶりだしてくる。
脚本はじめ芝居も映像も素晴らしいけど、人間関係の難儀な問題ごとに耐性のない人にはあまりお勧めしない。


15.エレナの惑い [アンドレイ・ズビャギンツェフ]




資産家と再婚した中年女性の裕福で理想的な生活。
ゆっくりゆったりとその生活に奇形の手足が生えていく。
白く清くまばゆく広い静寂の寝室を、何一つ損なわずあんなにもおぞましく描けるなんて、ほとんど魔術のようだ。
鑑賞後の余韻が甚大で、うわぁ、うわーぁあ、と何度か言った。
なまじっかフィクションに慣れていると、よくある話だね、で済ませてしまうかもしれない。
しかしこの映画は人間ドラマの微妙な隙間の隙間を見事に射抜いていて、実のところ、多くの物語に親しんでいる人ほど感じ入れるのではないかと思う。



14.ミツバチのささやき[ビクトル・エリセ]




スペインのひなびた村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。
主人公の少女はその幻影を追って、負傷兵と出会う。
話を読み取ろうとすれば解釈らしき解釈も主題らしき主題もほの見えてくるだろうけども、あまりに美しい映像を前に頭脳は麻痺して、あぁとかはぁとか、感嘆詞ばかり吐くだけの化け物と化してしまった。
このランキングでもさんざっぱら映像が美麗なのなんだのとレビューかましてきているが、ビクトル・エリセはその頂点に立つ。
光と陰、色彩、質感、霊感、肌触りにいたるまで! もうこの映像だけあれば他に何もいらないやと思わせる、楽園的な中毒性がある。
何度でも観たい逸品。
 

13.ボーイ・ミーツ・ガール[レオス・カラックス]




カラックスの長編第一作。 
詩情の炸裂弾。
難解とも退屈ともなじらないでほしい。
天衣無縫な霊感の温泉から湧く湯気の只中を自由にめいっぱい漂わせてもらった心地を愉しめる。
ゴダールの影響を受けてなおゴダールから跳躍してやろうというようなもがきも、もがきそれ自体が芸術化している。
以降のカラックス作品は圧倒的に今作より見やすい一方で、今作こそがカラックスの手引となっているようなところがあり、見返すごとに理解が深まる。
とはいえ理解だなんて、果たして映画にそんなものいるのかは疑わしい。
刺激。
何度見ても力強い刺激がある。
規格外の刺激により感度は否応なく高まり、それからしばらくは他の何を見ても刺激が強まる好循環をもたらしてくれるのが嬉しい。



12.太陽を盗んだ男[長谷川和彦]




70年代邦画が誇る暴風映画。
ろくに目的もなく原発に忍び込みプルトニウムをくすねて自室のアパートで原爆を開発する中学教師…というあらすじだけでも面白い。
主人公を演じる沢田研二がたまらない。
色気のある役柄ではないところがいっそ、名状しがたい魅力を引き立てる。小踊りしっちゃったりねもう…。
敵役にあたる菅原文太もいい。彼との対決シーンは何度見ても笑ってしまう。
全編に渡って破天荒で奇天烈で、勢いよく、広い歩幅で道なき道を走り抜けていく感じ。
観ると元気になる…わけではなにせよ、人体に不可欠ではない栄養素を摂取できる。



11.エル・スール[ビクトル・エリセ]




映画の楽しみ方の一つに、他人様の家を観察させてもらえる役得がある。
繊細に組み立てられ、監督の美意識が投射された人工的な小宇宙にうっとりするのだ。
この映画の舞台となるおうち、"かもめの家"はその最高峰に君臨する。
ただでさえ無上の映像美を誇るビクトルエリセが、またなんとも高雅な家をでっちあげたものだと、頭が上がらない。ありがとうございます。ありがとうございます。
寒村の何気ない道並みだとかもいい。恍惚。ありがとうございます。
映画界、おおよそ2010年あたりからデジタル技術の向上によってか映像画質の水準が高まって、きれいだなーと感興できる作品が増えたけれども、1980年代に製作されたこのアナログ映画を越えられる日はこないんじゃないかと思われ、空恐ろしくなる。現代を嘆くのでなく、あまりにこの映画が美しすぎるので。視力が上がり寿命が延びる。




10.雪の轍[ヌリ・ビルゲ・ジェイラン]




カッパドキアの洞窟ホテルを舞台にしたトルコ映画。2015年のパルムドール。
ところどころ思弁的なセリフが延々続き、退屈かもしれないが、大真面目に追ってみるとたいへん身になる。
体裁は芸術映画。しかし言葉を連ねてひたすらに言い合うその有様は、さながら弁舌のアクション映画。
おっさんどもの顔つき、演技にも目を惹きつけられっぱなしで、190分間全然飽きない。
映像も美しい。美しいだけでなく、その場に居合わせているような臨場感まである。きっと静止画のカットの妙やらを駆使して、魔法をかけているのだろう。


9.黒猫 白猫[エミール・クストリッツァ]




ジプシーミュージックとともに見るものを置き去りにしながらハイテンションで突っ走る喜劇的映画。
パレードスペクタクル。大騒乱の大傑作。
音声、状況、人物、動物、器物、情感、情動がひっきりなしに行き交い、無尽の情報量に陶酔させられる。
それはまるで、…ある設定環境があって、その場面から起こりうるあらゆる可能性を一画面に収めてしまったような、パラレルワールドの出来事を片っぱしからかき集め一画面に収めたたような目まぐるしさ。
そしてうそみたいなハッピーエンド!
デウスエクスマキナがどれだけ強引でも、その力強さに引っ張られるのが快感なのだから、まったく支障ない。


8.さよなら子供たち[ルイ・マル]




ナチス占領下のパリで友達がユダヤ人であることを知ってしまった少年が主人公。
戦争を題材とした思想云々は置いてしまってもぞんぶんに楽しめる。
少年性の描写が見事で、とくに幼い兄弟間のやりとりは、ウンウンウンウンウンウンこうだよねこうだよねこうだよねこうだよね少年てこうだよね兄弟てこうだよね、としきりに頷きながら見入った。
製作は1980年代のようで、この時期ならではのざらついた画質がものすごく好き。


7.僕がいない場所[ドロタ・ケンジェルザヴスカ]




詩人を夢見る少年が孤児院から抜け出したあげくに、町はずれの家屋の隅に隠れ住み、やがてその家の少女と出会うというポーランド映画。
シネフィル方の鑑賞眼からすれば拙さが多く高評価はできないらしい。僕は、好きで仕方ない。
少年と少女のうすぼんやりとした関係性は、恋愛でもなく友情でもなく、他人同士の透明感がある。
楽曲の存在感強すぎて映画とのまろやかな一体化はされていないのかもしれないが、これはこれで独特の情感を印象付けている。
ろうそくが散りばめられた風呂場のシーンはいくぶん漫画的であるし品格ある映像美ではないのだろうがストレートに美景。
全編、ずーっと観ていられる。
この映画をスクリーンに映し続けている部屋に住みたい。


6.ツィゴイネルワイゼン[鈴木清順]




鈴木清順で一番好き。
原作となった内田百里痢屮汽薀機璽討糧廖廚眩農欧蕕靴い韻鼻△海留撚茲狼喊Г傍喊Г鮟鼎佑董他にまったく類を見ない一属一種の生き物となっている。
ヨーロッパ風でもなく日本風でもない、鈴木清順ならではの魔術的な色使い。
拍子木の鳴る切通しはよく晴れていて、曇るより靄がかるより一層不気味さがきわだっている。
脚本もキレてる。
"どちらまで?" "はい。ずうっと歩いてまいりましたの"
この二言は、あらゆる映画を通して、僕が最も愛好する会話劇。洒脱で、妖しくて、握力をあしらう色気たっぷり。
このやりとりに一つの宇宙がとじこめられているようだ。
俳優、女優も素晴らしくってですね…。
大楠道代の色っぽさときたらない。大谷直子の艶には妖気が宿されている。
監督を中心としたスタッフ、役者陣、ロケ地までもが一丸となって、ただならぬ悪夢を創生したといおうか。唯一無二の奇跡的な作品。


れどれ |MAIL