舌の色はピンク
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2020年04月10日(金) 映画ベスト50 [50-26]

僕個人独断による好みだけで順位づけています。
ジャンルはほぼヒューマンドラマ。英語の映画はめったに観ません。


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50.アンダルシアの犬[ルイス・ブニュエル]




スペインの鬼才ルイス・ブニュエルが画家のサルバドール・ダリと共同制作したことで有名な映画で、なにしろダリだから、やってることはシュールレアリスム。
はじめからそのつもりで鑑賞していてもなお、何が何だか、頭が狂わされていく。
実験的とも芸術的ともとれる突飛な映像の数々は、たんに映画をおもちゃに遊んでいるのだと捉えれば、理解不能と一蹴せずにするやもしれない。
荒唐無稽ともとれるあらゆるアイデアをぎりぎり映画としてつなぎとめるために、男と女を配置しているのが面白かった。
なんであれ、男と女さえ置いておけば映画の体裁にはなるのだ。


49.たかが世界の終わり[グザヴィエ・ドラン]




観る気の失せるどーしようもない邦題だけどほぼ直訳のようだ。
死を間近に控えた主人公がそれを告白しようと数十年ぶりに帰省した実家で、家族は延々ずっと意味のないような話をし続ける、という劇像がこの映画の見どころ。
怒れる兄のいかれたような怒涛のセリフまわしが秀抜で、心に残ったのはほとんどここくらいだけれども、このワンポイントだけで戦えるほどよかった。
景気よくまくしたてるフランス語が耳に心地いい。言ってる内容は苛烈なんだけれども。


48.田舎の日曜日[ベルトラン・タヴェルニエ]




話らしい話が何一つない、田舎の日曜日、としか言いようがないフランス映画。
片田舎の老人の哀歓なんぞいくらでも味付けできるだろうに、安直な色気に誘われず終始平熱で描いてくれていた。
癒されるといえば癒されるし、しみじみしながら考えさせられもする。
威圧はされない。ただ緩やかに圧倒される。
老人が元画家という設定もあいまって、日光や緑のみずみずしい印象派絵画を想起させられる映像美は、是非ともブルーレイで堪能していただきたい。


47.トスカーナの贋作[アッバス・キアロスタミ]




舞台はイタリア、仏伊英の三か国語を操るジュリエット・ビノシュを主演に描かれるラブロマンスと見せかけて、プロットは至ってややこしい。
美術館の案内をしていたところカフェの店主から夫婦と間違えられた男女が、それを否定せず夫婦関係を演じてみせる。これがカフェを出てからも続く。
二人の関係や語られる思い出話は、何がどこまで真実なのか疑わしいまま話が進んでいく。
節々に芸術論めいた印象的なセリフがあったはずだが思い出せないのが惜しい。
小説ならばページに折り目をつけるし、漫画ならすぐ探し出せるのに、映画はこの点つくづくもったいない。
再鑑賞の楽しみが用意されているのだと思っておこうか。


46.嘆きのピエタ[キム・ギドク]




ただでさえ不穏なノワール映画の多い韓国映画のなかでもとりわけ胸糞展開に定評のあるキムギドクの代表作。2012年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。
天涯孤独らしい冷酷な借金取りが、自分の母を名乗る女が現れてから生き方を揺さぶられていくさまは、まあそこまで迫ってくることもないのだけど、ひもじい工場の色のなさやら、生の実感が希薄なアパートの部屋模様だとかの映像がいちいちよかった。
ラストシーンがきわめて美しく、あの画に辿り着くためにシナリオが書かれたのではないかと勘ぐってしまう。


45.トリコロール/青の愛[クシシュトフ・キェシロフスキ]




ポーランド出身の監督が、フランスから依頼されて製作したらしい三部作の一作目。
自由、平等、博愛を象徴するトリコロールの、自由が本作の主題となる。
その自由は孤独と背中合わせで、アパートの階段につましく座り込むジュリエット・ビノシュが言葉より多くを表現していた。
タイトル通りの、青を基調とした画面の美麗さにひたすら感動されっぱなし。
ちょうどこういう鉄面皮な映画が観たいタイミングであったこともかち合って背筋に快感物質ほとばしった、と当時の感想メモに残っていた。


44.ありふれた事件[レミー・ベルヴォー, アンドレ・ボンゼル, ブノワ・ボールヴールド]




どこにでもいそうなスーツ姿の男が当たり前みたいに殺人を犯していく日常を追ったベルギー映画。
登場人物がカメラで彼を撮り続けているというフェイクドキュメンタリーの体裁。
暴力描写が映画的なアクションでなく、ありのままの暴力が振るわれているようで、こたえる。
登場人物が撮影した映像をそのまま映画として見させられているわけなので、緊迫したシーンでカメラが地べたへほっぽかれると、ただ静止した背景を映し出しながら、遠くから叫び声が聞こえてくるという演出となり、想像力がぞわぞわ働かされる。
この映画を観ることは鑑賞というより体験に近かった。


43.セリ・ノワール[アラン・コルノー]




これまたノワール映画。話よか、おフランスの小汚いアパートの描写が印象的。
そして主演役者のすばしこい動作しぐさがとてもとても好き。
カメラも脚本もまるで彼の魅力を喧伝するために練られたかのごとくで見ごたえある芝居。
あの人コントローラーで操作できたら楽しいだろなと夢想せずにはいられなかった。


42.エリザのために[クリスティアン・ムンジウ]




「4ヶ月3週間と2日」がルーマニア当時の独裁政権下の実情を怖気だつほど容赦ないリアリズムで見せてくれたから、社会派の期待が背負われるままに「汚れなき祈り」も「エリザのために」も、同じ地平から評価が定まってしまわれそうなのをグッとこらえて、いや「エリザのために」は違うんじゃないか、脱社会派なんじゃないかと思われた。
というのも主人公である父役が今作では何かと国家の政情を言い訳に仕立てて憚らないから。父(父権)と国家は権威的な主題になりがちだが、彼を取り巻く構造を紐解けば、娘/妻/母/浮気相手と、人生の熟した男に隣り合う"恐るべき女たち"のひと揃いは、並べて国家と対立させられていない。
ロンドンに留学さえすれば何もかもが好転する、リスのほっぺをつねる御伽話のような生活が待っているとおそらく本気で信じ込んでいるこの父役の滑稽さには、ルーマニアのどうやらたしからしい不安定さを差し引いてなお、逆説的に"まだ全てを国のせいにしているの?"という軽侮が呼びおこされる。
こうなると、次回作はいよいよ、国家批判みたいな壮大さとは切り離された純粋な空き地から淡々と人間ドラマ描き出してくれるのではと期待も高まってくる。4ヵ月…ではそんなところからばっかり魅力掘り出して脳みそ揺さぶられていたしていた手前、どうしても願ってしまう。
だいたいが、ルーマニアこんなに大変なんですよと訴えられても、壁もガラスもペンキも引き出しも床もラグも時計も椅子もひび割れた小物も控えめの街灯もあれもこれも映像に収められたことごとくが人を悠々うっとりさせるに足る趣きなのだから本心から気の毒がれやしない。きゃあ、かわいいね、となる。
(鑑賞直後当時の感想メモから抜粋)


41.ラブレス[アンドレイ・ズビャギンツェフ]




薄い雲に陽の光を遮られっぱなしのロシアの寒空がびしばし肌に伝わってくる。
話は救いようがなく陰鬱だけれども、不遇からスタートした話が、順当に進展していくだけともいえる。露悪的に不幸を描いてやろうとするような煩わしさはない。
ただこの世界、別に普通にこういうこともあるよねという感じ。
この監督はそこんとこほんと上手で、いつもたらふくご馳走さまです。


40.悲しみのミルク[クラウディア・リョサ] 




動ける写真集、物言う写真集。
母親の体験した苦しみが母乳を通して子供に伝染する“恐乳病”という、ペルーの言い伝えなんだか作り話なんだかが題材。
映像美と、残虐なアイデアの数々にうたれた。
ジャケットに採用されている一コマは筋書き上重要でないシーンながら鮮烈な印象をたたきつけてくる。
こういう芸当が映画ならではの強みで、かけがえない味わい深さ。


39.ドッグヴィル[ラース・フォン・トリアー]




だだっぴろいスタジオに家具やドアを配置して線引いて役者置いて動かして、これを舞台とし村だと設定する、異色の手法で撮られた映画。 
かつてないような画面のなか意地の悪いドラマが繰り広げられていく。
ラース・フォン・トリアーのファンは人間の本質が〜などといかにも深長な評しかたをしている気がするけども、むしろ人間の表層によっていかに悲劇がうまれるかとか、上っ面のほうに着目した方が興味深いよう思える。どこまでも上っ面が面白いので、本質とやらは他に任せましょう。
気がるに見始めて、だんだんギョッとしてくる心地がたまらないので。


38.めざめ[デルフィーヌ・グレーズ]




幾人かの女性を主人公として、闘牛を軸に彼女らの因縁が絡まり合っていくフランス映画。
全編に渡って右脳開きっぱなしの映像。
大胆で挑発的で好戦的なつくり。監督は女性だそうで、この映画を見た後しばらく女性監督作品をあさった。
脚本もよかった。
始終暗示の網が密に過ぎるきらいはあれどあざとくもなく、急所では鋭利な台詞で突き刺してくる。
"いいもの観た。すぐさまもう一度観れる"と、鑑賞直後の感想メモには残っている。
しかし悲しいかな、近所のレンタルDVD店からは姿を消してしまった。買わな。


37.哭声(コクソン)[ナ・ホンジン]




ある村で一家皆殺しの惨殺事件が立て続けに起こる、その真相を追うという韓国映画。
これはホラーにあたるのか? サスペンスホラーかサイコホラーとでも呼ぶのか。
これまでに見た映画のなかではもっとも恐怖した。
息をするのもためらわれる恐怖は、想像によってもたらされる。
凄惨な殺人現場は結果だけを示すにとどまり、決定的瞬間は映し出さず、ひたすらに不穏さを放ちっぱなし。
しかし鑑賞者は何が起こったかなど想像するひまなく、次の事態に備えなければならない。
次に何が起こるのか、何が起こってしまうのか、延々想像を強いられストレスを過大に負わされる。
事態の真相をめぐって、終盤には幾人かの証言がまとまってくるが、どの説をいかに採用しても"矛盾を起こすこととなる"脚本は圧巻。
韓国映画の本気という感じ。とはいえこの映画のせいで、他の韓国映画が霞んでしまってもいる…。
 

36.フランケンシュタイン[ジェームズ・ホエール]




まごうことなき名作。製作公開は90年前なんですって。
余計な贅肉が削ぎ落された、見どころしかないシナリオ。
怪物を狩りに夜な夜なぞろぞろ農具持って繰り出していく村人たちのパレード感が素晴らしかった。
全員に共有されることとなる思い出の夜という感じで。
あの行軍に加わりたいと願わされてしまったし、加わったような錯覚に陥りもした。
そんな楽しみかたは稀かもしれないが、おそらくは誰しもが数多の観点からいかようにも楽しんでしまえる名画。
 

35.カノン[ギャスパー・ノエ]



 
なんとかっこえージャケットなのか…。
娘に倒錯した愛情を抱いている馬肉屋のおっさんが主人公で、笑いもしないししゃべりもしないが、罵詈雑言だらけのモノローグはとめどない。
不満、怒り、不満、怒り、不満、怒り、不満、怒り…。
ひたすら鬱屈としたおっさんを嫌悪させられながら、なおも惹きつけられることとなる。
同監督「カルネ」の続編。僕は「カルネ」の方が好きだけども、あっちは短いから、「カノン」の方が映画的には楽しめる。


34.アモーレス・ペロス[アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ]




ある交通事故を因果の基点として3人の運命が描かれるメキシコ映画。
立体交差したいくつもの物語筋が絡まりほどけていく快感。
150分あるとはいえ、娯楽映画の調子もあってすんなり観れるから、誰彼問わずお勧めできる。
ただし壊れゆく男女仲の描写は生々しくかなりつらい。
なんちゃって、映画は生々しくてなんぼですから。素晴らしい生々しさだった。
その容赦のなさにどうぞ胸を締めつけられていただきたい。


33.殺しの烙印[鈴木清順]




"男前ーの 殺し屋はー 香水の匂いーがーした〜"という稀代の名曲から始まり、人を食ったような場面を挟みながら、殺し屋のお仕事が描かれてゆく伝説的な日活アクション。
かっこいいんだか笑わせるつもりなんだか、理解不能な狂った場面が多く、よくわからないまま脳がふつふつ沸騰させられてしまう。
最近、脳、沸騰していますか?
脳はたびたび沸騰させてやらなければゆっくり死んでいってしまうので、この映画には医療的効能もあるといえる。いえてしまえる。


32.トリコロール/白の愛[クシシュトフ・キェシロフスキ]




トリコロール三部作の二本目。
幕間的な位置づけらしく、男女の愛憎劇という筋立ても明確で、いわゆる難解な芸術映画とはちがい取っ付きやすい。
僕にとっては、シナリオよりも映像と、そして音が好みでたまらなかった。
前作でも感じた音への拘りがより執念的に覚醒しきり鬼気となって襲いかかってくる。
冒頭2秒で催眠にかけられる。
床の軋み一つとってもまじないじみているのだから手に負えない。その美術の御業にひたすら酔いしれてしまった。


31.居酒屋[ルネ・クレマン]




エミール・ゾラの小説が原作の白黒映画。 
快活で大声張り上げっぱなしのフランス語が耳に心地いい。
製作公開は1950年代だそうで、この時代はどの国の映画も人物がみんな元気でびっくりする。
今作は主人公の人格がたくましく、鉄火肌で、まさに烈女と呼ぶにふさわしい。
貧しいけど、大変なことも多いけど、くじけないで頑張っていこう。
という目で見ていると危ういかもしれない。
タイトルが抜群で、お話とは因果を描くものなのだなあと感慨にふけった。


30.裸足の季節[デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン]




封建的観念から家に閉じ込めれる女性たちという因習を悪し様に描ききったトルコ映画。
いささか女性側に寄りすぎていていまいち主題にはのりきれない。
問題提起するならば公平である必要はなくとも公正さは不可欠ではないかと、身構えてしまう。
とはいえそれらを差し引いても十分に楽しめる。
のっけから制服姿の美少女たちが海でキャッキャし始めたのには心配したが、話が進むにつれて彼女ら姉妹のキャラクターや関係性に通底する透明なところにドンドン惹かれていった。
イスタンブールに行きさえすれば何もかもが解決するというような夢物語を胸にしたエクソダスの行方は、クライマックスで、その映像に託される。
あの美しい映像を、そこから引き起こされる夢のようなイメージを多くの人に体感してほしい。


29.第七の封印[イングマール・ベルイマン]




ペストはびこる中世を舞台にしたなんだか哲学的なスウェーデン映画。
聖書を背骨とした解釈によってベルイマン独自の死生観を紐解くのが本来望まれる見方かしれないが、ジャケットひとつとってもわかる通り、ビジュアルだけでも楽しめる。
なにしろ騎士が死神にチェスを挑むのだ。
そこにはシナリオとしてよりいっそビジュアル的な快感がある。
難解だ、で済ませてしまってはもったいない。
全ての寓意を読み取って組み立て直し立体図を描いてやろうなどと無理しないで、豊富に配置された妙趣を点のまま楽しむだけでも十分だと思う。


28.セールスマン[アスガル・ファルハーディー]




フランス住まいのイラン人夫婦が主役。
引っ越したてのマンションで妻が何者かに性暴行される。その犯人を夫は捜索し…
とまとめるならばちょっとシリアスサスペンス映画なのだが、そこはアスガル・ファルハーディー。ただではすまさない。
この監督は現実(の過酷)を見つめる視力が常軌を逸しているようなところがあり、それを見事に映画におとしこめるのだから参ってしまう。疲弊なしには付き合えない。
たいへん理知的で浮つかず地に足がついている。ただしずっと1.5Gの重力をかけられている。
人間と人間が接するにあたっての深刻な悶着をフィクションで味わいたい層にはうってつけの作品。 


27.ヴェラの祈り [アンドレイ・ズビャギンツェフ]




"子供ができたの。あなたの子供ではないけれど"
ゆったりと重苦しく、静かで美しいロシア映画。
タルコフスキーの系譜を思わせる映像美は、しかしタルコフスキーよりずっと柔軟で簡明、好みのツボのことごとくを揉みしだいていただいた。
好みのツボというものは時に譜面の音符みたいに配置されて感覚器官の正常を試してくる。今回、映画の進展に合わせて的確な音楽が打ち鳴らされていった実感があった。
また、車をいかに走らせるか、車をカット割にどう組み込んでくるかって、映画監督各々に千差万別の個性があるなと、今作で初めて意識した。
何気ないけど独特の呼吸があるんですね。それがやけに心地いい。


26.裁かれるは善人のみ [アンドレイ・ズビャギンツェフ]




ロシアの片田舎に住む修理工が、市長にその家を奪われるかどうかの瀬戸際でもがき、苦しむ。
国家-町-家庭-個人と、マクロからミクロまでが一脈に見通せるような仕掛けでドラマを描ききっている。
人間が人間として生きるにあたり避けられない重苦しいところをほじくってくるやり口はズビャギンツェフさすがの手並み。
しかし社会問題、倫理観、宗教観による要請はあるにせよ、やはり単純に、好きなんだと思う。
不遇で辛辣な人間模様を描くのが。この監督は。好きこそものの上手なれ。上手です。素晴らしい。
そして相変わらず映像は美麗。
衝撃的なジャケット写真として採用されたその場面は、たいそう清らかで、おごそかな救済の力学まで見受けられ、大事にしたいと思った。


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