カゼノトオリミチ
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取りこわし前の 木造校舎は この学期で お別れと知ってか 歩くと いつもよりキシキシ 鳴っていた
さざめく紺色のスカートが てんでに ひらひら揺れるのや 校舎の 木枠の窓の脇で 芽吹き始めた 柳の枝が さびしそうに 吹かれているのや
校庭を駆け抜ける 砂ぼこりや 帰宅する生徒たちの 呼び交わす声や
それらはどれもみな 解体の時を待つ 木造校舎の老いた木目を やさしく 労わるように 寄り添っていた
最後の5時間授業の日 破れそうな 薄いガラスから差し込む か弱い春の光の中で 先生が教えてくれた
水を手ですくうことを他になんというか
誰も知らず答えられず 長い数秒間のあと 先生は少し驚いて そして静かに ムスブ と言った
てのひらに こうやって 川の流れをすくうとき 手に水を結ぶというのだよ
あれから何度も 二つの手のひらで 水を結ぶ 真似をしてみた
なぜこんなにも ココロから消えないのかわからない
川沿いの柳も切られ 華やかな アメリカハナミズキの並木になった 学校の制服も ハイカラなネクタイになった
手で水を結んでみる よく見れば そのカタチは チイサナ トリの巣にも 見える 両手のひらの あわさった辺りには シジュウカラの卵が いくつか 転がっていそうにも 見える
春は 何度でも訪れ 校舎の横の 川はいまも流れ 紺色から グレーにかわった制服の プリーツの数は変わっても
変わらず スカートは ひらひらと 揺れ続ける いまも 登校時にも 下校時にも
natu

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