歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年10月21日(火) 冥土の土産を作りましょう!

「月末までに何とか入れ歯を作ることはできないでしょうか?」

このようなことを言われた来院された患者さんはSさん。正確にはSさんに付き添っていた娘さんが言われたのですが、これには理由がありました。

高齢のSさんはもともと九州の某所に住んでいたのですが、事情があって当地近くのSさんの娘さんの家に滞在していました。Sさんの娘さんはずっとお母さんの面倒をみるつもりでいたのだとか。ところが、Sさんは日に日に田舎のことが懐かしくなり、残り短い人生を田舎で過ごしたいと思うようになったのだとか。田舎では基本的には一人暮らしになるのだそうですが、近所には懇意にしている仲間が何人もいて、何か思わぬことが生じても直ぐに駆けつけてくれるような間柄なのだそうで、生活には困らないのだそうです。
当初、Sさんの娘さんはSさんが田舎に帰られることには難色を示していたそうですが、自分の親が田舎を思う気持ちを尊重し、最終的にはSさんに同意されたのだそうです。

そこで、田舎に帰るまでに口元だけはしっかりとして欲しいというSさんの娘さんの要望で、Sさんをうちの歯科医院に連れてきたというわけです。これが先月末のことでした。

実際に口の中を診てみると、残っている歯は少数でした。Sさん本人に確認してみると、
「今まで生きてきて一度も入れ歯を使ったことがない。」

残っている歯が少ないのに入れ歯を使用したことがない。一体どうやって食べ物を食べてきたのだろう?と思ったのですが、どうも軟らかいものを中心に飲み込むように食べてきたようです。
一度田舎に帰ってしまうと、なかなか歯医者に通うのは難しい。しかも、人生初めての入れ歯ということで、僕はSさんの満足のいく入れ歯をつくることができるかどうか自信がありませんでしたが、Sさんの娘さん曰く

「冥土の土産に入れ歯を作って下さいな!」

Sさんも僕も思わず笑ってしまいました。
「冥土の土産を作りましょう!」ということで入れ歯作りを作ることにしたのです。

月末に田舎に戻るということで、かなりの突貫工事的な忙しさで入れ歯を作りました。果たして入れ歯の出来はどんなものか?不安と心配で一杯でしたが、幸いなことに入れ歯の出来上がりはSさんの満足のいくものでした。

「何だか、10歳くらい若返りましたなあ。調子いいですよぅ。」
間髪を入れず、Sさんの娘さんが突っ込みます。

「冥土の土産には充分過ぎる入れ歯ですなあ、ハッハッハ・・・。」

まあまあ、冥土の土産と言わず、まだまだ当地の土産物として日常生活に使って欲しい。そのようなことを強く感じた、歯医者そうさんでした。


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