| 2008年10月20日(月) |
差し歯、入れ歯はメイド・イン・ジャパン |
昨日、インターネットのニュースを見ていると気になるニュースがありました。
朝日新聞10月18日付け 歯の治療で使われる「補てつ物」に、中国や東南アジアからの輸入品が増えている。補てつ物の使用には規制がなく、外国製の輸入状況も不明で、歯科医らの間では材料の安全性や品質に対する不安の声が広がっている。厚生労働省は6千人を超える全国の歯科医に近くアンケートし、使用実態を調べる。 補てつ物は、金属やセラミックが原料の、歯にかぶせる冠や入れ歯。歯科医や歯科技工士が製作してきた。だが、全国保険医団体連合会によると、近年は外国製が目立って増えてきた。 外国製は国内製の半値ほどで、歯科医が個人的に輸入したり、歯科技工所が中国などの技工所に製作を委託したりするようになったという。 こうした実情を把握するため、厚労省は近くアンケートを始めることになった。日本歯科医師会の約6万5千人の会員から、約1割の歯科医を無作為に抽出し、アンケートを配布。年末までの回収を目指す。 調査項目は(1)海外に補てつ物を委託した数(2)委託した内容(3)委託して不都合はあったか――など。専門家6人を加えて、アンケート結果を検討する。 歯科医が補てつ物を輸入し使用することは治療の一環とされ、法的な規制はない。また、「世界的に問題が生じたという報告はない」(厚労省歯科保健課)という。 それでも、多くの歯科医が「健康被害が出てからでは遅い」と、外国製の補てつ物調査を求めてきた。 厚労省が調査に取り組むのは、現場の不安の声に押されたためだ。それでも補てつ物の中身の分析に踏み込まない調査のため、どこまで実態が解明できるか不透明だ。 歯科医でもある同連合会の成田博之理事は「中国製だから問題というのではなく、今のままでは安全性を確保できないことが問題だ。製作者の資格、材料や施設の基準、輸入時の安全検査が必要だ」と話している。
歯医者が差し歯、被せ歯、入れ歯を自ら作っていた時代もありましたが、今では完全に分業態勢になっています。すなわち、歯医者が患者さんの歯型を取り、模型を作ると、その模型を基に歯科技工士が差し歯、被せ歯、入れ歯を作るようになっています。 うちの歯科医院でもその例に漏れず、僕が歯型を取り、模型を作ったものを懇意にしている歯科技工士に製作を委託し、作ってもらっています。
海外へ被せ歯、差し歯、入れ歯といった補綴物の製作を委託するにはそれなりの事情があります。ほとんどの歯科医院では保険診療をしているはずですが、そこで認められた診療報酬は実態とは掛け離れた報酬となっています。実際にかかる費用に対して診療報酬が低く抑えられているのです。本来ならこの低く抑えられている診療報酬をもっと上げてほしいのですが、医療費を含めた社会保障費が抑制されている国の政策では困難なのが実情。そこで残された道は如何に補綴物を安くあげるかということになってきます。
しわ寄せは歯科医院の仕事を引き受ける歯科技工士にくるのです。少しでも安く、経費をかけずに作って欲しいという要望が歯科技工士に対して迫ります。下請け的な立場上、どうしても歯科技工士は安く作らざるをえなくなるのですが、歯科技工士も生活があります。コストを下げる努力はしていますが、それも限界に達し、結果として歯科技工士を廃業する人が増えてきたのです。そのため、歯科技工士を目指そうとする若い世代も少なく、歯科業界では歯科技工士不足の深刻化が進んでいるのです。
経費を少しでも安く上げたい、歯科技工士不足といった事情などからどうしても注目されるのが補綴物の海外委託です。実際のところ、大手の歯科技工所と呼ばれるところでは、海外に補綴物を委託し、製作させ、コストを下げているとのこと。そのことを察知した、厚生労働省は安全性の面を調査するということから実態調査をするようになったようです。
僕は今回のニュースを見て非常に複雑な気持ちになりました。青息吐息の経営状況の歯科医院が多い中、多くの歯科医院がコストを節減するために少しでも経費が掛からずに補綴物の製作依頼をすることは理解できます。
その一方、補綴物は誰のためにあるか?ということを考えると、補綴物の海外委託を僕は考え直すべきではないかと思うのです。本来なら、補綴物は患者さんの身近で治療をする歯科医師が作るべきものです。ところが、一日何人もの患者さんの治療をしながら補綴物作ることは時間的にも肉体的にも精神的にもできません。そのため、歯科医師に代わり補綴物を作るのが歯科技工士です。歯科技工士は単に補綴物を作るだけでなく、患者さんとともにあるべき存在です。
本来なら、各歯科医院で歯科技工士がいることが理想で、そのような態勢を取っている歯科医院もあります。ところが、経費的な面でどうしても自分の歯科医院で歯科技工士を雇うことができない歯科医院も数多くあります。我が歯科医院もそんな弱小歯科医院の一つです。そこで、歯科医院外にある歯科技工所に委託して、補綴物を作ってもらっています。
ただし、僕は歯科医院外の歯科技工所に委託しても必ず心がけていることがあります。それは、自分が持っている患者さんの情報をなるべく、できるだけそのまま担当の歯科技工士に伝えることです。補綴物を作る際、歯型をもとにつくった模型だけでなく、技工指示書と呼ばれる紙に詳細を書いて依頼しますが、実際に補綴物を作ってもらう歯科技工士にも顔を合わせて直接説明します。場合によっては、直接患者さんを見てもらい、意見交換をしながらより良い補綴物を作ってもらうようにします。 そうした意思伝達を重ねることがより良い補綴物を作ることになりますし、患者さんの利益にもなるはずです。実際にかかる補綴物製作料は決して安いものではありませんが、これは必要経費ではないかと僕は思います。
海外に補綴物の製作を委託すれば、言葉の問題がありますし、細かな歯科医師の要望が充分に伝わる可能性は低くなることでしょう。果たしてこれが患者さんのためになることでしょうか?
僕は補綴物はメイド・イン・ジャパンにこだわりたいと思います。日本で暮らす人の口の中を守るのは日本の歯科医師であることは明白なことですが、歯科医師の代わりとなって補綴物を作る歯科技工士も日本の歯科技工士でなければならないのではないかと考えます。厚生労働省では安全面から補綴物の海外委託を調べるといっていますが、日本の医療は日本で守るのが筋です。日本で暮らす人の口の中にセットする大切な補綴物も日本国内で作ること。これも筋ではないかと考えます。
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