歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年10月14日(火) あまりにも滑稽な目標

最近、読んだ資料の中に思わず、“それはないだろう!”と突っ込みたくなるようなことがありました。その資料とは、健康日本21の79の目標です。

健康日本21とは21世紀における国民健康づくり運動の一環として厚生労働省がイニシアチブを取っている運動のことです。
世界でも有数の長寿国となったわが国ですが、実際のところは、長寿とは言っても寝たきりになってしまったり、認知症が進み、自分の身の回りのことを自分ですることができない、介護を必要とする高齢者が多く存在します。何でも、国全体での介護保険給付料は、6兆円余りが必要なのだそうです。また、高齢者の医療費も増加し続けています。これら高齢者の社会保障費の伸びを少しでも抑えるためには、若い時代からの健康づくりが欠かせません。そこで、厚生労働省では2000年に今後10年間の健康づくりのための目標を定めたのが健康日本21なのです。

栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、がん、糖尿病、循環器病、たばこ、アルコール歯の健康という9つの領域に79の目標を設定しているのです。地方公共団体等は、国の定めたこれら目標を参考に、それぞれ実情に応じて目標を定め、一人でも多くの人が健康を長期間維持できるように心がけることが求められているのです。

この健康日本21の目標ですが、見てみると、中にはとんでもない滑稽な目標があることに気がつきます。
例えば、栄養・食生活の領域での目標の一つに朝食を欠食する人の減少という項目があります。この中で、中学、高校生の欠食率の目標を2010年までに0%するというのです。現状は、2000年当初は6.0%、2005年では6.2%とわずかながら上昇しています。

僕はこの目標は実現不可能な目標設定ではなかったのかと思います。朝食を欠食することは栄養学的に絶対に良くないことはわかっています。ところが、中学、高校生といった思春期の子供たちは様々な理由で朝食を取らないことが多いもの。わずか10年の間で朝食の欠食率を0%にするということは、彼ら彼女らの実態を考えると非常に無謀な目標ではないかと言わざるをえません。

同様の目標が別の箇所にあります。たばこの領域での未成年の喫煙をなくすという目標です。中学、高校の男女の喫煙率の目標が0%なのです。現状はといいますと、中学1年生男子で喫煙率は3.2%、高校3年生男子では喫煙率は21.7%です。一方、中学1年生女子では喫煙率2.4%、高校3年生女子では喫煙率は9.7%。これを2010年にはゼロにするというのです。

賢明な読者の方ならイメージがわくと思いますが、思春期の時代には大人に突っ張るというのか、憧れというべきなのか、たばこを吸ってしまう人が後を絶ちません。健康を考えるならば良くないでしょうし、決して許されることではありませんが、思春期の彼ら、彼女らがたばこを吸ってしまうというのは仕方がないところもあるもの。中学生、高校生の喫煙率が高いのには驚きますが、それ以上に2010年に喫煙率の目標をゼロに設定している目標にも開いた口が塞がりません。本当に思春期の学生の生活を考え、実現可能な目標設定をしているのか、疑問を感じざるをえないのです。何だか理想を掲げているだけで、実際に思春期の学生たちのことを思いやって目標を設定しているのでしょうか?

全く同じことがアルコールにも言えます。2010年における中学3年、高校3年の飲酒率の目標がゼロなのです。現状は中学1年生男子では16.7%、高校3年生男子では38.4%です。中学3年生女子では14.7%、高校3年生女子では32.0%。たばこ以上に実現不可能なことは目に見えています。

それ以外にも実現不可能な目標がいくつもあります。実際に健康日本21の目標を設定した担当者は一体何を基準に、何を目的としてこれら79の目標を設定したのでしょう。担当者の思い込み、理想だけが一人歩きし、現実に即した目標が設定されていないように思えてなりません。

健康長寿を目指すことは非常に大切なことで、誰でも死ぬまで健康でありたいと願うものです。そのためには若い頃からの健康に対する意識、健康な長寿に結びつく生活習慣が欠かせません。ところが、健康長寿を国の政策として推し進め、誰よりも専門家であるはずの厚生労働省そのものが現実からは掛け離れた目標を立て、政策をしようとしている現実。
この滑稽な健康日本21の目標は、大いに批判されるべきことではないかと考えます


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