| 2008年07月16日(水) |
抜いた歯は棺桶に持っていきます |
僕は仕事柄、歯を抜くことが多いのですが、歯を抜いた後、必ず患者さんに確認することがあります。それは、抜歯した歯をどうするか?です。
そもそも抜歯とは、何らかの理由で歯の保存が不可能である場合、やむを得ず歯を抜く行為のことをいいます。歯が割れてしまったり、むし歯が深く進行したり、歯周病が進行して激しく動揺しているような場合、歯を保存することで体に悪影響を及ぼす可能性が高い場合、僕は患者さんに抜歯を提案します。患者さんには抜歯せざるをえない理由をレントゲン写真や患者さんの口の中をミラーやカメラを用いながらわかりやすく説明します。どうして抜歯するのか理由を解説するのです。
患者さんが抜歯の理由を理解し、了承をしてから初めて抜歯を行いますが、抜歯を終えた後にも僕が必ず行うことがあります。それは抜歯した歯の後始末をどうするかです。 抜歯した歯とはいっても元はといえば、患者さん自身の歯。患者さんがもっていた、親からもらった臓器のひとつ。患者さんの大切な臓器を処分する際、患者さんの意向を確認することは必要不可欠なことだと考えます。
実際の患者さんの反応ですが、ほとんどが 「処分しておいてください。」
抜歯した歯は姿も見たくない、これまでこの歯があったことで苦しまざるをえなかった、せいぜいこれからは苦しんだ歯の姿形をみることなく、処分したい。そのように考える患者さんが大半です。 処分を依頼された歯医者はどうするかといいますと、一種の医療廃棄物として歯を処分をしたり、処分した歯に金属の詰め物があったり、金属の被せがある場合、再資源金属として専門業者に委託して、回収してもらい、処分してもらうわけです。
中には抜歯した歯を持って帰りたいと望む患者さんもいます。その大半は、子供の患者さんです。子供というよりも付き添いの親御さんが望む場合がほとんどなのですが、家に持ち帰り、記念として保存するか、昔からの習慣で、軒下や屋根の上に抜歯した乳歯を置いておく場合が多いようです。
永久歯の場合は、ほとんどの患者さんは抜歯した歯を持ち帰らないのですが、中には抜歯した永久歯をもって帰りたいと申し出る患者さんもいています。このような場合、僕はガーゼに包んだ抜歯永久歯を持って帰ってもらうのですが、先日、抜歯した歯をもって帰りたいと申し出た人の理由には驚いてしまいました。
「一緒に棺桶に持って入りたいのですよ。」
棺桶か?誰もが自分の一生を最後に終える場所ということがいえるでしょう。しかも、意識はなく医師から死亡宣告を受け、一人きりで入る棺桶。いくら自分の体から分離した歯とはいえ、一生を終える時には自分の大切な体の一部として一緒にあの世へ旅立ちたい。そのような患者さんの強い気持ちが伝わってきたように感じました。 僕は即座に返答しました。
「どうぞ、この大切な歯をお持ち帰り下さい!」
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