歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2008年06月30日(月) タクシーチケットの何が悪い?

今日の日記を読むと、”お前の考えは甘い!”という批判を受けるかもしれません。そうした批判は甘んじて受けたいと思います。

今から10年以上前、僕は某病院の歯科研修医として某市に勤務しておりました。当時、某病院では他の医科の研修医もたくさんおり、これら研修医には寮が用意されていたのですが、歯科研修医は寮がありませんでした。どうして寮に入れないのか?病院の事務局に尋ねたところ、

「君は研修医ではなく歯科研修医だから寮に入る資格がない」
とのことでした。
某病院の歯科とはいっても、歯科口腔外科を中心とした治療を行っておりました。口腔癌や嚢胞、感染症、骨折などの患者さんなどは入院が必要であり、僕が所属していた歯科では病棟に常に10床以上が確保されていました。わずか10床ではありますが、気を抜けることはほとんどなく、これら患者さんの手術や術後の管理などいろいろと仕事がありました。診療の合間にはいくつもの輪読会、抄読会、症例報告の場があり、歯科研修医は研修とは言っても朝早くから深夜にいたるまでずっと病院で過ごさなければなりませんでした。病院の近くにある寮があれば非常に有難かったのですが、当時の歯科研修医は病院の研修医専用寮に入る資格がなかったのです。

病院からの回答は非常に悔しく、むなしい思いをしたものですが、僕は自宅から通いました。本来なら、病院の近くに下宿すべきだったのでしょうが、当時の歯科研修医は非常な薄給で下宿するような場所を借りる家賃も捻出することができません。僕は自立したかったのですが、やむをえず家から通う方法を取っていたのです。

家から某病院までは1時間半ほどかかりましたが、深夜になるとバスや電車の本数は極端に減ります。まともに電車、バスを利用すれば帰宅するのに3時間以上、場合によっては帰宅できなかったのです。僕は何度も病院に泊まったこともありましが、いくら若かったとはいえ病院に1カ月何日間も泊まると体力がもちませんでした。
いくら遠くても自宅の自室の布団ほど熟睡できる場所はありません。どんな仕事でも言えることですが、患者さんの体を治療する医療では体力がなければ仕事になりません。特に、僕は睡眠がある程度取れなければやっていけない方だったので、どうしても自宅の自室で寝ることにこだわっていました。

夜遅くまで仕事をせざるをえない状況。その頃にはバスや電車が無い。こうした時に非常に助かったのがタクシーチケットでした。当時の某病院では夜の10時を過ぎればタクシーチケットが交付されていたのです。僕もそのことは知っていましたが、最初は遠慮していました。たかが歯科研修医の分際で公金を利用してタクシーを利用することがはばかれていたのですが、毎日朝早くから夜遅くまで、休みも満足に取れない状況で、帰宅ということになると、どうしてもタクシーを利用せざるをえませんでした。

このタクシーチケット、非常に助かりました。タクシーに乗り、自宅まで行き先を告げた後、自然と瞼が塞がります。気がついたら自宅近くだったことが度々でしたが、安心して自宅まで帰宅できるタクシー利用に僕は何度感謝をしたかわかりません。

昨今、官公庁でのタクシーチケット利用に批判が多いようですが、僕は大半のタクシーチケット利用者は正当な理由があって利用していると思えてなりません。限られた給料の中、近くに家を借りることができず、仕事も朝早くから深夜まで多くある。体力面を考えると、家で休みたい。そのような人たちにとって深夜家まで帰る手段としてのタクシーチケットは非常に有難いはず。国民の血税からきているタクシーチケットではありますが、非常に汗をかいている人たちのためには止むを得ない出費ではないかと思うのです。

問題はこうしたタクシーチケットを正当な理由無く使用している少数の不心得者です。自分の欲望のために公金を横領するようにタクシーチケットを利用する。しかも、その額が尋常な額ではないために、本来タクシーチケットを利用しなければいけない人にまで迷惑がかかっているのが現状ではないかと思うのです。

タクシーチケット問題が出て以来、官公庁では何人もの人が官公庁に泊まって仕事をしているのだとか。タクシーチケット利用批判があるために、正当な理由があって利用していた人までもがタクシーチケットを利用できず、自分の体力だけを消耗してしまう現状。このような現状を僕は憂います。
国民のために朝早くから深夜遅くまで必死で働いている人たちの正当な権利としてのタクシーチケット。このタクシーチケットの権利を奪うことはないと考えます。


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