歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年08月28日(火) 差し歯、被せ歯、詰め物が取れる原因とは?

日々、人様の口の中、歯の治療をしている僕ですが、不思議なもので時として同じ症状の患者さんの来院が続く時があります。ここ数週間でのうちの歯科医院では、被せ歯、差し歯、詰め物(以下、補綴物と略します。補綴物と書いて“ほてつぶつ”と呼びます)が取れたという患者さんの来院が続いています。

“夕食をしている最中、何か硬い物を噛んだと思ったら被せ歯だった”
“おやつを食べていた時、突然”ボリッ“という音がしたので、何かと思うと詰め物が取れていた”
“入れ歯を取り外した時に、入れ歯と共に差し歯が取れてしまった”
などなど、補綴物が取れた時の状況は人それぞれです。

それでは、これら補綴物が取れる時というのは口の中で何が起こっているのでしょうか?
まず考えられるのが、補綴物を歯にくっつけている接着セメントの劣化です。補綴物は天然の歯質に接着させて初めて意味が出るものですが、接着に用いられているのが接着材としての接着セメントです。接着セメントといってもいくつかの種類に分類できるのですが、これら接着セメントは、永久的なものではありません。長年の時間経過によって徐々に劣化してくるのです。劣化するとどうなるか?補綴物と天然の歯質との接着力が低下し、何かを噛んだり飲んだりした際、接着が崩壊してしまい、補綴物が脱落してしまうのです。

次に考えられるのが、むし歯です。せっかくセットした補綴物ですが、歯磨きを怠り、口の中が汚れたままであれば、補綴物と天然の歯との境目からむし歯が発生します。むし歯が発生し広がっていくと、歯質は脆くなっていくもの。補綴物の土台になっている歯の歯質も脆くなり、歯に強い力が掛かるとむし歯により犯された脆い歯質が崩壊。補綴物が取れてしまうのです。
僕の個人的な経験では、補綴物が取れる原因の中で最も多いのがむし歯ではないかと感じています。

それから、もう一つ可能性としてあるのが、歯の破折によるものです。これは神経を処置した歯に多く生じるケースです。以前、むし歯などが原因で神経を処置した歯は、脆くなる傾向にあります。神経、専門的には歯髄といいますが、この歯髄は単に神経だけではなく微小な細胞や血管からなる複合体です。歯髄があることにより、歯の新陳代謝が活発に行われるのです。歯というと一見すると何も変化がないようですが、実際のところは、ミクロレベルで数多くの微小な物質による新陳代謝が活発に行われているのです。
むし歯により痛みが生じ、歯髄を除去せざるをえなくなった時、確かに痛みを取り除くことはできるのですが、その一方、歯にとって貴重な新陳代謝が行われる貴重な部位を失うことにもなります。歯髄が失われるということは、歯の活性がなくなり、その結果として歯質が脆くなることを意味するのです。歯質が脆くなるということは、歯の耐久性がなくなることを意味します。歯髄があれば問題のないような歯でも、歯髄が無くなることで思わぬことで、歯が割れたり、欠けたりする確率が高くなるのです。補綴物が取れて直ちにくっつけなおしたとしても、土台となっている歯が割れていたり、欠けていたりしていれば、くっつけなおした補綴物は直ぐに脱落してしまいます。

補綴物が取れた場合、上記のようなことが主に考えられます。単にセメントの劣化が原因であった場合は、ただちに再度セメントを用いて接着すれば問題ありませんが、むし歯や歯の損傷が原因の場合、むし歯の治療や修復、場合によっては抜歯をせざるをえない場合もあるのです。

補綴物が取れた場合、皆さんにお願いしたいのは、取れた補綴物を捨てずに必ず歯医者へ持っていって欲しいということです。取れた補綴物を処分してしまうと、新しい補綴物を作らないといけません。上記の原因を考えると、取れた補綴物が再度使用できる可能性があるのです。どうか、補綴物が取れた場合、皆さんには自己判断で処分するのではなく、再度使用できる可能性があるとして、必ず歯医者へ持っていき、担当の歯医者に見せて欲しいと思います。


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