My life as a cat
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2021年09月04日(土) みんな笑ってた

隣人宅でアペロ。祖母のマリーと孫娘の二人暮らしなのだが、デンマークからマリーの息子がやってきて、リュカが彼と面識がないので、みんなでアペロをしようという運びとなったのだった。この家族はあれこれ複雑。マリーがフランス語と英語をごちゃごちゃに混ぜて語る家族の話を聞いてると頭が混乱してくるのだが、やっと理解したことによれば、こういうことだ。マリーはデンマーク人で年齢はわたしの母と同年代。デンマークで麻酔を専門とする看護師として28年間働いた。24時間いつでも駆けつけられるようにと病院に住み込み、夜中でも連絡が入れば飛び起きて駆けつけ、一歩遅ければ命を失ってしまう赤ちゃんに麻酔を打つのが彼女の仕事。姿勢をピンっと正して、いつでも家と庭が整然と保たれているのは、緊迫した日々の中で育まれた習性なのではないかと想像した。自分の子供が欲しかったがどうしてもできず、インドの孤児を二人養子に迎え入れた。だから息子さんは蒼白というくらい色白のマリーとは対照的に太陽をたっぷり浴びてこんがり焼けたような肌色なのだった。娘さんは10年前すーっと家族全員との連絡を絶った。50歳になったマリーは24時間いつも気を張っていなければならないハードな仕事に疲れて辞める。客船の中で待機するナースとなり定年退職まで勤め上げた。息子は結婚し、女の子を授かる。が、その子はダウン症だった。母親は彼女が1歳の時に交通事故で亡くなった。定年退職し、離婚し、ひとりで毎年夏の休暇を過ごしていた南仏の家に永住しようかという折にダウン症の孫を連れてきてここで育てた。

マリーがロクちゃんを抱きたいという。さっき物が重く感じられるようになって買い物はもっぱらデリバリーしてもらってると聞いたばかりだったから、恐る恐る手渡す。一瞬不安げな顔をしたロクちゃんがマリーの顔を触ってにっこり笑った。マリーも本当に嬉しそうだった。

「こんな風に赤ちゃんに触れることはあんまりなかったから」

そりゃそうだ。泣きわめく赤ちゃんを押さえつけて麻酔を打って、養子にもらった娘と息子は既に赤ちゃんという年ではなかったのだから。こんな満面の笑みで腕に抱かれてる赤ちゃんにマリーの目は輝いた。ロクちゃんは大人しく一緒に食事をし、その後マリーの息子さんに抱かれて笑っていた。たった大人5人という会なのに、ひとつの話題を囲むことなく、会話があちこちにシャボン玉のように浮遊し、それをこの孫娘とその愛犬が割って歩いてるような疲れる会ではあったが、はじまって2時間後、孫娘の

「ママ(マリー)はもう寝る時間なのよ」

という一言に退散するきっかけを得て、そそくさと家に引き上げた。

「あぁ、なんという無秩序な会なのか。ぐったりだぁ〜」

とカウチに倒れこんでぐだぐだした。でも思い出したらみんな笑顔だったな。ロクちゃんも沢山笑ってた。

「マリー、ロクちゃん抱っこして本当嬉しそうだったね。それで君が陶器見て"ロイヤル・コペンハーゲンだね"って言って、とどめは僕が"コペンハーゲン行ったことあるよ"って言って。めちゃくちゃ目輝いてたよ」

こんな夜はよく眠れる。


Michelina |MAIL