My life as a cat
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2016年09月03日(土) 壊れたコーヒーカップ

早朝、女の怒鳴り声で目が覚めた。声の主は下の階に住む中国人の奥さん。口の悪い男から日本語を教わったのだろう、その辺のチンピラのような言葉使いだ。旦那と中学生の息子は至ってまともな言葉使いなのだが、彼らは日本人で、状況によって使い分けが出来るだけなのかもしれない。怒鳴り声とドスンドスンという音は一向にやまない。1時間くらい経ったころ、さすがに気になってガウンを羽織ってドアの外に出て下を覗いてみた。ちょうど旦那が逃げるように車で出ていくところだった。その背中に奥さんが怒鳴り続けていた。

「アタシの何がいけないって言うんだよ!言ってみろ!バカヤロー!!!」

一旦は静かになったが、しばらくすると大きな声をあげて泣き啜りながら中国語で誰かと話すのが聞こえてきた。スカイプでもしているのだろう。こんな時に泣きつける家族はみんな中国だし、見たところ日本に友達もいない。主婦である彼女は朝は早くから洗濯をしているし、わたしが会社から帰る時間はせっせとゴマ油の良い香りを漂わせて中華料理の夕飯を作っているのだ。わたしも含めてこのあたりの人々は窓は四六時中開け放っていてお互いの生活はつつ抜けだ。それは周囲の様子がわかって非常に安心感に繋がっているのだが。言葉使いこそ乱暴だが、彼女はせっせとよく働く愛情深いお母さんなのだろうというのはまっすぐよく育った息子を見ればすぐにわかる。朝から中国語の音楽を大音量でかけて起こされたりすることは多々あるが、鼻歌が好きな陽気な人で、どこかにくめなかった。

わたしが入居してすぐの頃は彼らの喧嘩する声をよく聞いた。そのたびにクロエちゃんが飛び上がって窓から身を乗り出して、彼らの家の様子をうかがっていた。それでもその頃はふたりでゲラゲラを笑う声もよく聞いた。それが次第に彼らの声は聞こえなくなり、代わりに奥さんがスカイプで中国語で話す声だけが響くようになった。そして半年くらい前から家の外で旦那さんが小声で電話で話しているのをよく見かけるようになった。家族に聞かれたくない会話なのかもしれない。一見静かに落ち着いたように見えた家庭には実は何か黒いものが蠢いていたのだろうか。

昨夜、外でぼんやり煙草をふかす旦那さんを見た。煙草を手にしているのを見るのは初めてだったせいか、何か悪い予感がした。

どちらが悪いなんてないのかもしれないが、泣き喚いている奥さんが心配になった。こういうのって詰ったほうが詰られたほうよりよほど大きな傷を負ってしまうものだ。

夜になって旦那さんが車で帰宅した。しかし、いつもの中華料理の夕飯の匂いは漂わず、家は真っ暗で静まり返っている。


久々にパンを焼いた。ローズマリーのフォカッチャ。暑すぎたせいだろう、過発酵となってやや失敗だった。暑すぎるとイーストが糖を食べつくしてしまうので味の無いパンになるそうだ。まさにそれだ。イワシのフライとマヨネーズを挟んで食べた。残ったパンは乾燥させてクルトンにしてスープに溶かしてしまうことにしよう。

クレオパトラもよく食べたというモロヘイヤ。スープにして毎日のように飲んでいる。バターでにんにくを炒めて、スープストックと刻んだモロヘイヤを入れるだけ。火を使う時間も短いし、夏はするっと体に入るのでうってつけ。若き日は美貌と知性を武器に男達を巧みに操ったクレオパトラ。だがその魅力も年を取るにつれて後退した。男達はもう彼女には操れなかった。とうとう39歳で毒蛇に自分の体を噛ませて自殺した。呑気に40歳になったわたしは、�猗�肌効果!�爐覆匹噺世い覆�らせっせとモロヘイヤを食べている。

夜にふらりと母が愛犬を連れてやってきた。彼は典型的な小型犬で落ち着きがない。クロエちゃんは�爐舛腓辰閥貅蠅覆笋牒爐�らいな冷ややかな視線を送るのみだが、相手は遊びたくて仕方がない。無理やり擦り寄っていって煙たがられている。ちょっと目を離した隙に隣の部屋でガッチャーンという音がした。わたしのお気に入りのポルトガル製のマグカップが割れていた。高いものではないが、もう手に入らないものだ。やれやれ。


Michelina |MAIL