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| 2016年03月09日(水) |
Do you need help? |
会社でランチを食べていたら、すぐそこで白人男性とアジア系男性が二人でレンジの扉を開けたり閉めたりして狼狽えているのが見えた。お弁当を温めたいようだ。近寄って声をかけた。
"Do you need help?"
就職して間もない頃、職場にオリタさんという30歳くらいのエンジニアの女性がいた。当時は女性のエンジニアなんてなかなかいなくて、男性と同志のように働く彼女は異色だった。髪はショート、化粧もしていなくて、私服はTシャツとジーパンのような飾らない見た目の人だった。では、女らしくないかというとそうではなくて、新婚で同じ職場にいる旦那さんの話をするときは、すごく幸せな″恋する女の子の表情″をして、彼女の秘密を見てしまったようにはっとさせられた。誰とでも分け隔てなく話す人だったけれど、一定の距離を保ってそれ以上は他人を近寄らせない崇高な空気をまとっていた。憧れのおねえさんだった。
ある日、就業時間が終わる間際、彼女がやってきて、一緒に夕飯をどうかと誘われた。仕事で賞を取ったのでその賞金で美味しいものを食べようというのだった。わたしはほんの少しお手伝いをしただけだったが、そんな機会もなかなかないので、ごちそうしてもらうことにした。
会社の近くに新しくできたイタリアン・レストランのカウンターへ座り、ワインやパスタと他愛ない会話を楽しんだ。何を話したのかは記憶にない。
彼女の向こう側に白人のカップルが座っていた。日本語で書かれたメニューが理解できず困っている様子だった。彼女はちらりと横を見ると、あまりにも自然に迷わず声をかけた。
″Do you need help?"
メニューにあるものをざっと説明すると、彼らの好みを聞き、適当なものを薦めた。素直に彼女のおすすめをオーダーした彼らは一皿一皿を楽しんでいるようだった。
わたし達のグラスが空くのを見計らって今度は彼らが声をかけてきた。一杯おごらせてほしいという。お礼を述べてありがたくいただいた。愉快で楽しい夜だった。
困っている人を見て、そのまま通り過ぎるのは簡単だ。しかし、声をかけることは難しいだろうか。そんなことはない。少なくともわたしには。それならば、困っている人を見たら声をかけるのを当然とする人でいようと決めた。オファーを受け取るかどうかは相手が自由に選べばいい。″オファーした″という事実が自分を気持ちよくさせてくれるのだから。
しかし、あれから10年以上が経過した今、思い返せばオファーしたことよりもされたことのほうが余程多かった。雑踏ですれ違うだけの人の顔は覚えてなくても、立ち止まってヘルプをオファーしてくれた人の顔はずっと忘れないものだよ。