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夕方コンサートへ出かけ、帰り道大勢でわいわいと駅前の雑居ビルの中のヴェトナム料理屋で夜食を摂った。フランス人のジョゼフの知ってる店と聞き、かなり疑っていたのだが(だって外国人に″Great!″と称賛される店が本当にそうだった試しがないのよ)、意外に良いお店だった。この会は長々管を巻く習慣のない人ばかりで、自分の食べたいものを頼んで、ぐいっと呑んで、スルっと食べて、さっくりと会話が盛り上がったと思ったら、次の瞬間には上着を羽織って散っている。そうであるからこそ気軽にいつでも参加できるのだろう。
前に座っていたジョゼフは、日本で挙げるカトリック式結婚式の準備に忙しいとか、ベッキーがあそこまで攻められるのはひどいとか話し、タレントのモノマネをして見せたりもしていた。ロバート・デ・ニーロの顔真似は瓜二つだった。
私が頼んだ海老トーストとコンデンスミルクたっぷりのベトナムコーヒーは腹八分を満たして、1350円なり。
店の外へでて、カシミヤのコートはいいなどとジョゼフとわたしが話していると、彼の妻が、
「カシミヤなんて寒いじゃない。ダウン着たら、もう手放せない」
と、ダウンの襟を立てて、首筋にピタリとくつけた。ジョゼフが不満気に言う。
「彼女はオレが編んだマフラー使ってくれないんだ!」
「でもキャップは愛用してるじゃん」
妻の頭は太い毛糸でザクザクと編んだキャップに包まれていた。聞けば、1時間近くかかる通勤電車の中、黙々と編んでいたという。一目ごとに愛情も一緒に編み込まれているのだろう。弁当男子もいいけど、編み物男子っていうのも素敵ね。彼らが知り合う前、わたしがフランス語を勉強しはじめたばかりの頃、女友達との間でこんな会話がなされた。
「フランス人のボーイフレンドでもいればもっと上達も速かろうね」
「ジョゼフとかどう?」
「タイプとは違うけど、彼は付き合う女の子には本当にマジメで優しいと思うよ」
それから1年後くらいに、突然彼が彼女を連れてきて、数カ月ごとに会う度に一緒に暮らし始めた、結婚した、お互いの両親に挨拶をしに行ったと、あれよあれよというまに進行した。彼の愛妻家ぶりは微笑ましい限りだ。わたしは競馬で駿馬を言い当てたような妙に誇らしい気持ちになり、今はもう地方の田舎に帰ってしまった女友達に報告したくなった。