My life as a cat
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2015年10月08日(木) 魔法の塩

昔々、背が低くててっぷりとした体躯の絵に描いたようなイタリア人のマンマがいた。大きな鍋で煮込んだトマトソースを大きな木べらで両手を使ってわっしわっしとかきまぜる姿がここまでピンとくる人は他に知らない。そのマンマがわたしにリゾットを作ってくれるという。米とワインと何かのスープストックだけのラフなもので、それはシャンパン色に仕上がっていく。塩を指でつまんでパラパラと振り入れる。

「わたしには魔法の塩があるから、なんでも美味しく作れるんだ」

分厚い大皿にこれでもかというような量を盛りこみ、大きなボウルにたっぷり卸されたパルミジャーノチーズと共にドンッと出される。

たっぷりとチーズをふりかけ、アツアツをひとくち。おいしい!

しかし、食べていくうちに気付いて、ガス台の脇にどっさり置かれている″魔法の塩″とやらを舐めてみた。その正体は紛れもなく″Ajinomoto″であった。時は21世紀。イタリアでもスロウフードは絶滅の危機に瀕しているのだろうか。とびっきりの食材できちんと手順を踏むのに、その仕上げに必ず″魔法の塩″を振りかけてしまうマンマを見ながら切なくなった。

しかし、これはホンモノのわたしの″魔法の塩″のお話。数年前から初夏のヒコイワシが出回る時期にアンチョビを作っている。イワシの処理をして、粗塩をたっぷりとまぶしてハーブや粒胡椒を乗せ冷蔵庫に置いておく。50日後、イワシから水分がでて身がしまっている。そのたっぷりと粗塩とイワシのエキスを含んだ水分こそが、ひしお(ナンプラー)。イワシは一度洗い流して、皮やヒレを拭き取ってオリーブオイルと共にビン詰めして熟成させる。ひしおは別にビン詰めして取っておく。

これが冷蔵庫の奥に行ってしまって、その存在をすっかり忘れてしまっていたのだが、ふと見つけて使い始めた。野菜炒めやパスタなどの塩として使うと、マンマミーア!、一瞬にして驚くほど料理の旨みが増す。市販のナンプラーより何倍も旨い。殆どの料理は野菜だけでこなしているけれど、さっと味を調えたい時など重宝する。これはわたしが手間暇かけて作った″魔法の塩″だ。


Michelina |MAIL