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マーヴがわたしの暮らしからぱたりと消えてしまってもいつもと同じ青い空とマイルドな空気が広がっていて、一緒に産み落とされた兄弟猫のように何をするでもなくただ寄り添って過ごしたこの8ヶ月は夢だったのではないかと思えてくる。それでもわたしの左腕には彼のおさがりの腕時計が休むことなく動いていて、右手の薬指には彼がなけなしのお金で何とか買ってきてくれた指輪がある。
一度だけ何も知らず受付で教えられた病室に突進するように走っていって、タイミングよく開け放たれた室内にマーヴを見た。「マーヴ!!」と叫ぶとわたしを見て手招きした。すぐにガードが立ちはだかってドアを閉めて、わたしのIDを念入りにチェックした挙句に追い返された。この国は不足し過ぎの「知識」を優秀な外国人に大きく頼りつつも、彼らは問題が起これば断然弱い立場に置かれてポイと捨てられてしまう。悔しくてその場でぽろぽろと泣いていると、ナースが「彼の様態は良くなってきてるから大丈夫よ。」と肩に手を置いてティッシュを持ってきてくれた。
慣れ親しんだこの町でマーヴと過ごしてあたたかい気持ちになっていたのはわたしだけだったのだろうかと彼との心の温度差を思ってはまた悲しくなってしまう。