プラチナブルー ///目次前話続話

眠りのメディスン
April,9 2045

21:00 トッティの店

「もう、こんな時間だ。そろそろ出ようか」

9時を知らせる電子音がブラッドの左腕の携帯端末から鳴ると、アンジェラに声をかけた。

「うん」

アンジェラはトッティから貰った小瓶の箱と取扱説明書をポーチに入れ始めた。

「あ、そうだ、ブラッド。私、今夜はこの説明書を自宅に持ち帰って読もうと思うの」
「うん」

「でも、ほら…」

アンジェラがカウンターに伏したヴァレンに目配せをした。

「ん? じゃあ、俺がヴァレンティーネ様を連れて帰るよ」
「…うん、でも…」
「なに?」
「やっぱり、ヴァレンとブラッドを2人っきりにするのは…」
「あ、本当だ。アンジェラが家に帰ると、2人っきりだ…チャンス!」

ブラッドは陽気に笑っている。

「ちょっと、待ってね」

アンジェラが左腕の携帯端末の発信ボタンを押した。

『パパ。私、アンジェラ…うん、今夜、先生と友達を…』


どうやら、アンジェラは自宅に連絡を入れているようだ。
トッティが、目の前の食器を片付けるのをブラッドも手伝った。

「ヴァレンはよほど嬉しかったのね」
「ん?」

ブラッドがトッティを見上げた。

「この子が酔いつぶれるなんて珍しいのよ。よほど貴方たちを信頼しているんだわ」
「…そうなんだ」

ブラッドが口元に微笑を浮かべて眠っているヴァレンの横顔を見つめた。

「きっと、楽しい夢でも見ているのね」
「トッティは、ヴァレンのことを何でも知っているんだね」
「だって、アタシたち、フォンデンブルグ教会の孤児院の時から一緒なのよ」
「教会? 孤児院?」
「そう、話すと長くなるから今度にするけど、ヴァレンとは15年来の友人よ」
「…そうか、それでファンデンブルグを名乗っているんだ…」
「そう、アタシはトッティ・フォンデンブルグ。教会出身の子達は、みんな同じ姓よ」
「へ〜、また今度、ゆっくり話を聞かせてください」
「ええ、いいわ」

トッティが、ヴァレンの白銀の髪を撫でた。
サラサラと髪が揺れ、右の耳のピアスが蒼白く光っている。

「ねえ、ブラッド」
「ん?」

携帯端末を閉じたアンジェラが、ブラッドを呼んだ。

「今夜は、ヴァレンも連れて、私の家に泊まって」
「…そうだな、お世話になろうか、ヴァレンティーネ様を起こすのも忍びない」
「うん、よく眠っているわね、よほど疲れているのかしら」

ヴァレンのサイドバッグに、手荷物をまとめようと手に取ると、中から白い袋が落ちた。

(あら? この薬袋、クルツリンガー精神科のものだ。どうしてヴァレンが?)

Kurz Ringer Psychiatrieの名の刻まれた白い袋を、床から拾い上げると、
アンジェラはヴァレンをチラッとみてからバッグに戻した。

「どうした?アンジェラ」
「ううん、なんでもない」

アンジェラがブラッドには白い薬袋のことは告げず、ヴァレンのセカンドバッグを肩にかけた。

「トッティ、今夜も車をお願いしていいかい?」
「ええ、もちろんよ。昨日はアンジェラ、今夜はヴァレン。アナタも大変ね」
「あはは、美女2人を抱き上げられるなら、幸せなことですよ」
「うふふ、それもそうね」

「あ、昨日はありがとう、ブラッド。私、お礼も言ってなかった」
「ん? いいよ、気にするなよ、そんなこと」

そう云うと、ブラッドはヴァレンを両腕で抱き上げた。

「あ…」
「なに? どうしたの?」

ヴァレンを抱き上げ、真顔で呟いたブラッドを心配そうにアンジェラが尋ねた。

「アンジェラ…ヴァレンティーネ様は、お前より2kg程、軽いぞ…」

深刻そうな顔で、ブラッドがアンジェラに告げた。

「あはは」

トッティの噴出す笑い声とほぼ同時に、アンジェラの蹴りがブラッドの痛めた右肩に炸裂しようとした。
その瞬間、ブラッドの右腕のリストバンドが光り、ブラッドとヴァレンが光に包まれた。

「ちっ、命拾いしたわね、ブラッド…」
「凄いな〜この光も、アンジェラの蹴りも…驚いた」
「さ、車を用意するわ」

トッティが車のキーの付いたキーホルダーを、指先でくるくると回しながら入り口に向かった。
ブラッドは、ヴァレンを抱えたまま、その場でくるくると回った。
アンジェラは、その様子を見ながら、白い薬袋のことを考えていた。

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