プラチナブルー ///目次前話続話

額縁の語る真実
April,9 2045

21:40 クルツリンガー邸

トッティの店を出てから車で約30分、助手席に座ったアンジェラのナビゲートで、一行はアンジェラ邸に到着した。

住宅街にあるアンジェラ邸。レトロな雰囲気の玄関から入ると、右手にある客室に通された。

「とりあえず、ヴァレンをそこのソファーに寝かせてあげて」
「おう」

ブラッドはヴァレンをソファーに寝かせると、痺れを感じていた両腕を上下に数回振った。

「本当に熟睡しているわね」
「うん」

トッティが椅子に掛けてあったブランケットをブラッドに手渡した。
ブラッドは、チェック柄の布地を広げ、ヴァレンの足元に掛けた。

「飲み物を用意するわ」

アンジェラがそう云ってキッチンに向かおうとした時に、アンジェラの父親が書斎から降りてきた。

「ようこそ」
「今夜は失礼します」

白髪に白い髭のクルツリンガー氏に向かって、ブラッドとトッティは席を立ち挨拶をした。
アンジェラが、ブラッドとトッティを紹介した。

「おや、ファンデンブルグさんはお休みのようだ」
「あれ? パパ、何で先生の名前を知っているの?」
「ん? そうじゃったな・・・まあ詳しいことは後ほど話そう。まあ2人ともかけたまえ」

クルツリンガーは、左側の棚からワイングラスを4つ取り出し、中央のテーブルに置いた。
まもなくアンジェラが、缶ビールを数本と白ワインのボトルを手に戻ってきた。

「ブラッドはビール?」
「うん」
「トッティは?」
「アタシはワインを頂くわ」

アンジェラがそれぞれに飲み物を用意し終わると、ポーチから小瓶と取扱説明書を取り出した。

「ねえ、パパ。これをトッティに頂いたの・・・だけど、文字が読めなくて・・・」
「ん? どれどれ見せてご覧」

クルツリンガーはアンジェラから厚手の本を受け取り、開いてみた。

「ほほう、東洋医学の文字じゃな。これをどこで?」
「アタシの仕事のボスがジパング国の方で、その方に頂きましたの」
「ほほう、アン・・・この本を読むのには一晩かかりそうじゃ」
「うんうん、パパ、お願いね」
「わかった、この本には辰巳出版と書いてある。良い仕事をしているようじゃ・・・トッティ君」
「は、ありがたきお言葉、光栄ですわ・・・」

クルツリンガーは本を閉じると、眠っているヴァレンをチラッと見て、
アンジェラにヴァレンを2階の東側の部屋で休ませるように伝えた。

「え? お姉ちゃんの部屋に? 今まで誰も通したことがない部屋よ・・・」

不思議そうに尋ねるアンジェラに何かを諭すように、クルツリンガーは頷いた。

「ブラッド君、すまんがフォンデンブルグさんを運んで貰えるかの・・・」
「ええ、勿論」
「それと、アン・・・部屋の電気は点けたままにしておいてくれ」
「はい・・・」

「クルツリンガーさん、何故それを・・・ヴァレンが暗闇嫌いなことをご存知なのですか?」
「うむ、それも後ほど話をしよう」

アンジェラとトッティが不思議そうな顔をしている。
ブラッドは、会話の意味がわからずにいた。

アンジェラは階段をあがり、姉の部屋の扉を開いた。
15年前に、母と姉が出て行ったときのままの状態の部屋だ。
この部屋に他人を通すことは、その日以来、初めてのことだった。

「あら、なんだか、メルヘンチックな可愛い部屋ね」

トッティが、ぬいぐるみが並ぶ棚や、シールの貼ってあるタンスを見て呟いた。
アンジェラが、ベッドの掛け布団を捲ると、ブラッドがヴァレンを寝かせた。

「ここは、アンジェラのお姉さんの部屋?」
「うん、そう・・・」

トッティが部屋の中にあるさまざまなものに興味を示して見ている。
4つ並んだ熊のぬいぐるみの下に裏返しにされた額縁があった。

「アンジェラ、折角の写真が倒れてるわよ」

トッティが倒れていた額縁を手に取ると、埃が舞い上がった。
トッティが思わず、咳き込み、額縁をブラッドに手渡した。

手に取った額縁の埃を右手でさっと拭くと、ブラッドは顔を額縁に近づけた。
若かりし頃のクルツリンガー氏に妻らしき美しい女性、そして真ん中に2人の子供が手をつないでいる。
頭ひとつ背丈の違う子供たちの髪の色は白銀に近い金髪。

「あれ?」
「ん?どうしたのブラッド・・・」
「いや、アンジェラの髪が今と違うな・・・ と思ってさ」
「そりゃ、子供のカットと今は違うわよ・・・」
「いや、なんていうか・・・雰囲気がね、瞳の色も緑じゃないし・・・」

ブラッドは、額縁を元に戻そうと裏返しにすると金具を探した。
すると、消えかかった文字で何かが裏面に書いてある。
ブラッドは、用心深く埃を拭った。

『2029年4月5日・・・長女ヴァレンティーネ、8歳の誕生記念・・・』

「ええ?」
「なに、今度はどうしたの?ブラッド・・・」

「アンジェラ、お姉さんの名前は?」
「・・・だから、覚えてないんだって・・・」

「嘘だろ・・・おいおい、まじかよ・・・」
「ん? どうしたの?ブラッド」

トッティがブラッドの手に持っている額縁を横から見つめた。

「あれ?なんで、ヴァレンがここにいるの?」

ヴァレンと幼少時代をともに過ごしたトッティが写真を見て驚いた。

「嘘・・・ まさか・・・ そんなことが・・・」

アンジェラが駆け寄り、額縁をブラッドの手から奪い取るように引き寄せた。

「ああ、なんてこと・・・」

アンジェラが額縁を持ったままその場に座り込もうとすると、その勢いで髪に結わえた赤いリボンが、
ブラッドのベルトに引っかかってほどけた。

赤いリボンはゆっくりと宙を舞い、座り込んだアンジェラの膝の辺りに落ちた。
そして、ウィッグとしてつけていた金色の髪が赤いリボンの前に落ちると、
ブラッドとトッティの目の前には、透き通るような白に近い銀色の髪のアンジェラがいた。


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