美濃焼の加藤孝造氏が人間国宝に認定されることに なったというニュースをみました。ここのところ焼物界 の人間国宝認定者が他界するニュースが多かったの で、とても嬉しい知らせです。折しも先日多治見に出張 した際、県立陶磁資料館のお茶室で、孝造氏の志野 茶碗でお薄を一服いただいてきたところ。奇遇な報に 面識すらない大先達ではあるものの、勝手乍らとても 身近に感じました。
これが使わせていただいた孝造氏 の志野茶碗です。形(なり)は大振り の半筒で、見込はまったりと長石釉 がかかり、外には厚くかかった志野 釉が綺麗なカイラギを見せ、釉がけ 直後に指で掻き落としたであろう指 痕に緋色がふんわりと心地よい 『柔』 の美しさを持つ静か なお茶碗でした。使い込まれ茶慣れた口辺は艶めかしく、 少々ぼてっとした武骨な手取り乍ら、持ち重りしない、 手ざわりの良い茶碗でありました。
今回の認定は 『瀬戸黒』 での指定のようです。随分前の テレビですが、辻清明氏が美濃の工房を訪ねるという番組 の中で引き出し黒の鉄バサミを辻氏が持って 「いや、随分 重いものですね」 と問うと、孝造氏が 「そうなんです。幾つ か引き出すと草臥れちゃうんですよ」 なんて穏やかに仰って いられたのを思い出しました。同じ番組の中で自作を手に、 「私の作品は刃物で言えば鉈のような切れ味で良いと思っ ている」 とも仰っていられました。孝造氏の志野はまさに 野鍛冶が打った鉈のような、肉厚な刃物の印象でした。
志野を焼く方は沢山いらっしゃいますが、孝造氏の志野は やはり、細かなカイラギと柔らかい緋色がいいですなあ。 岐阜多治見へ行かれる機会がありましたら、ぜひとも陶磁 資料館のお茶室で一服なさってきてください。干菓子での お薄はなんと、400円というお手ごろ価格です。
椅子席もあるお茶室、でもやはり 志野は畳が似合います。
岐阜県陶磁資料館 茶室
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