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私は激昂していた。 多分1年半くらい前に梅田大丸で買ってそのまんま下駄箱にしまってあったポリーニのハイヒールを履いた。黒のシルクサテンが美しい、シンプルなハイヒール。 踏みつけるためのハイヒール。 硬いコンクリートを、おしゃべりを、幻想を、戯れを、詭弁を、饒舌を、行為を、甘えを、隔たりを、怯懦を、吝嗇を、欲望を、言語を、空想を、狂気を、憂鬱を、傷跡を、過去を、倒錯を、眼差しを、生を、死を、夢を、愛を、 踏みつけて、踏みこえていくためのハイヒール。 夜の街を歩いている間にJEFF BUCKLEYがHallelujahを歌い、それはライブテイクであるので彼は歌詞を飛ばしてしまい「これってロックンロールっぽいだろ?」とおどけてみせ、JOHN CALEもまたHallelujahを歌ったが聖なる鳩は見つからなかった。大きな黒いカラスがゴミ袋をあさっていた。 身体の軸は決してぶれない。 私は踊り方を知っているのだから。 ハイヒールをはじめて履いた日のことを思い出す。それは高校1年生の、御堂筋パレードの舞台の日。衣装とともに用意されていたのは銀色の、7センチくらいあるハイヒールだった。大江橋から難波までを踊りながら、走りながら、笑いながら通り過ぎ、控え室に戻ったとき私たちの大半は足の指から血を流していた。辛かったね、と、痛かったね、と、皆で泣いた。 私はまだ激昂している。 あのときからずっと激昂しているのかもしれない。 生まれてはじめてハイヒールを買ったのはいつだったのだろう。大学の入学式、私はどんな靴を履いていたのだろう。ジャン・ポール・ゴルチェの黒いスーツにいったいどんな靴を合わせたのだろう。覚えていない。 いつからか私はハイヒールしか履かなくなった。少し力を加えるだけで折れてしまいそうな細いヒールしか履かなくなった。いつからか、本当にいつからか。そしてそのハイヒールを履いて歩くとき、いつも、何かしら、激昂している。怒りを、憎しみを、或いは悲しみを叩きつけるかのように、アスファルトを踏みつけて響かせる。 なれない靴に足の指が痛み始める。 それでも私は歩きやめない。 LOWを、CALEXICOを、NINE INCH NAILSを、DIRTY THREEを、SLIPKNOTを、 MASSIVE ATTACKを、THE LA'Sを、MUSEを、GUNS N' ROSESを、PJ HARVEYを、STYROFOAMを、LISA GERMANOを、THE ARCADE FIREを、ANDREA PARKERを、 COCTEAU TWINSを、MANIC STREET PREACHERSを、NEUTRAL MILK HOTELを聞きながら 許し方を探して歩きやめない。 すべては霧の中だ。 |