終わりの旋律

弱弱しい斜陽を受けた
メタリックグレイの弱弱しい孤島に
眩暈を感じてその場に崩れ落ちる

同時刻に大量に発生した孤独の群れが
道路も線路も下水道も大気をも支配して
宇宙全体の調和を乱そうと試みている

僕は上も下もわからない錯乱状態の中
可能性の渦に飲み込まれる自分の体に
まだ腕と足がついていることを必死で確認する

つい先刻まで隣にいたはずの
つい先刻まで手にしていたはずの
ぬいぐるみはもう300m先の空
メタリックグレイ

融け始めた世界には
始まりと終わりの旋律が響きわたる

まだ
腕と足はこの世界に存在しているようだ
時間が生き物だったことを思い出した
由々しく荒々しく寒々しい
コントラバスとチェロの2重奏は続く

つい先刻まで隣にいたはずの
つい先刻まで手にしていたはずの
ぬいぐるみはもう800m先の空
かどうかもわからないメタリックグレイ

あれは大地だあれは大海原だ
あれは大空だあれは宇宙だ

臨界点に立てたなら
存在が消える瞬間
すべてを悟ることができるというのに

腕と足はまだこの世界に存在しているようだ
終わりの旋律が終わらない限り
世界も終わることはなく
終わりの旋律の終わり方がわからないから
コントラバスとチェロの2重奏は
世界に光を灯せないでいる






ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。