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『女性死神協会 会議中02番外編3 前編』

『返礼指南』

1.年長者に聞いてみよう

「やあ、日番谷君。悩んでいるんだって? 僕らに話してご覧よ」
 道端で顔をあわせるなりそう言って笑う京楽に、日番谷は憮然として顔を向けた。
「……話すことなんかねえっすよ」
 その言葉に京楽の隣で少し咳き込んでいた浮竹が拳を固める。
「何を言ってるんだ。一昨日も昨日もずっと昼休みにお菓子屋でうろうろしていたじゃないか。これからまたお菓子屋に行くのだろう? 何も買えないのなら相談してみろよ。ほら、亀の甲より年の功って言うじゃないか」
 握り拳で力説する浮竹を、日番谷は唖然として見上げた。どうしてそんなことを知ってるんだ、と日番谷は不機嫌になる。
 それを見透かしたかのように京楽が、
「ほら、君、一昨日も昨日も菓子屋の傍で誰かと会っているでしょ。そういうのって一日で広まるんだよね。特にきれいに包装された菓子の前でうろうろしていたらさ、この時期じゃない? 日番谷隊長は誰にお返しするんだろうって噂だよ?」
と含み笑いで話す。その横で浮竹が腕を組んでもっともらしく頷いているのが日番谷の癪に障る。障るのだが、図星なので反論のしようもなく、日番谷は不機嫌なまま黙り込んだ。その顔をみて京楽は更に微笑む。
「まあほら、座って話そうか。立ち話もなんだからさ」
 京楽がそう言って街路樹の下にある長椅子を指し示す。丁度良く浮竹が咳き込んで、だから日番谷は帰るの一言が口に出来ずに促されるまま椅子に腰掛けた。日番谷を挟むようにして京楽と浮竹が座る。
「とりあえず、ばれんたいんとやらのお返しだろう? 部下の皆から連名でもらったものには、俺は詰め合わせの菓子を準備しているけどな」
 浮竹がいきなり話し始めた。
「個別でもらったときには、菓子と、ちょっと洒落た手拭いを用意してる……といっても、俺は買いに行けないし、何が良いのかよく判らんから、指示だけして小椿に頼んでいるけどな」
「清音ちゃんじゃなくて小椿君なんだ?」
 京楽が眼を向けると浮竹は苦笑した。
「清音も俺にくれているからな、頼むわけにいかないだろう……小椿が買っていることは機密事項だがな」
「そうだよなあ……そりゃ」
 二人に挟まれた日番谷が足をぶらぶらさせて呟く。
「僕の場合はね、連名には浮竹と一緒で詰め合わせの菓子、個人でくれた場合には菓子と……まあちょっとした心付けを行動で」
 そう言って京楽は柔らかく笑い、付け足すように呟いた。
「消えてしまうものの方がいいからね」
 日番谷は京楽を見上げる。その横顔は静かで、何も語らない。日番谷は前に向き直り、
「伊勢にはどうしてるんだよ」
と尋ねた。その言葉に京楽は思い出し笑いをする。
「いや、ねえ、七緒ちゃんは……仰々しいと眉間に皺を寄せちゃうからねえ。あくまで彼女の重荷にならない程度のものを返しているよ。菓子に加えて小物なんかをね……相手のことを考えれば自然と決まると思うけどな、僕は」
 そう言って京楽は、ああ、と声を出して浮竹を見た。
「確か、長次郎さんがその辺はすごかったよね、浮竹」
「ああそう言えば。長次郎さんは事前調査がすごいからな」
 浮竹も笑って頷く。日番谷は首を傾げて頭上の二人を見上げる。
「誰だ、長次郎って」
「一番隊の副隊長だろうが」
 浮竹が何を言っているんだという顔をして日番谷を見下ろす。日番谷が、げ、と声を出した。
「俺……あの人の声聞いたことねえぞ」
「話してみると結構気さくな人だよ。学生時代、山爺に怒られたあと、こっそり菓子とかもらっていたなあ」
 京楽が眼を細めて言うと、浮竹も懐かしげな顔をした。
「お前はしょっちゅう先生に怒られていたからな。俺は普通に菓子をもらっていたぞ」
「年寄りの思い出話は長くなるから、さっさと話せよ。そのすごい事前調査を」
 日番谷が苛立った声で促す。京楽がごめんごめんと軽く笑った。
「長次郎さんはね、贈り主の好み・現在欲しい物・経済状態とか詳細に調べ上げて、負担に感じない程度だけど確かな品で、しかも贈り主が欲しいと思っていたものを必ず贈っているよ。どう調べるのかは教えてくれなかったけど、僕も以前、あったらいいなと思っていた物をもらったことがある。口にしたことはなかったんだけどねえ」
「どう調べるんだよ、そんなの」
「うーん、そこが長次郎さんの謎のところだよね。まあでも、相手が喜ぶものを贈りたければ、調べた方がいいと思うけどな」
 あの副隊長は謎だらけだろうというツッコミをぐっと押さえて、日番谷はとりあえず、頷いた。



2.経験豊富そうな人に聞いてみよう

 そこへ書類やら色々と抱えた大前田が通りかかった。隊長が三人並んで腰掛けて道に体を向けているので、先程から前を通る者は皆ぺこぺこと忙しく頭を上げ下げしていたのだが、大前田はぺこりと軽く頭を下げて、堂々と前を通ろうとする。
「大前田」
 浮竹が呼び止めると、大前田はひょいと体を向ける。
「なんすか」
「ちょっといいかな。悩める若者にアドバイスをして欲しいんだけど」
 京楽が笑って手招きする。大前田は面倒だと顔に思い切り大きく書いていたが、それでも近寄ってきた。その巨体を見上げ、日番谷は乱菊から以前聞いたことを思い出す。大前田は見た目もアレで性格も一見アレだが、実は面倒見がよく、本来の意味の適当ということをよく知っているから影で人気があるらしい。なるほど、尋ねる価値はあると日番谷は頷く。
「何でしょう」
「君さ、バレンタインのお返しって、どうしてる?」
 京楽の問いに大前田は間の抜けた顔をした。
「何でまた……まあ、いいっすけど。ええと、お中元お歳暮と同じ意味のものには同等の菓子に加えて、邪魔にならないようなモンを付けてます。ちょっとしたスカーフなんかは、何かの場で使うことも多いし、そう余計なモンでもないので、まあそういったのを」
「さすが大前田家だなあ。スカーフか。手拭いより洒落ているかもしれないな」
 浮竹が感心してしきりに頷いている。その横で日番谷は大前田からスカーフという言葉が出てきて驚いていた。
「本気のモンには、かなり美味い菓子だけを返します。後々、残らない方がいいっすからね」
「あ、断るんだ」
 京楽がきょとんとして反応すると、大前田は苦笑いを浮かべた。
「そんな暇っつうか余裕がないっすからねえ……だいたい、今年のバレンタインは俺がチョコを作ってましたし」
「ああ、そういや、美味かった。あれ」
 日番谷が思いだして言う。砕蜂の名で贈られてきたケーキは非常に美味で美しかった。大前田が作ったはずだと乱菊から聞いていたが、本当にそうだったのかと大前田の太い指に目をやる。
 大前田はぺこりと軽く頭を下げて、
「お返しを下さるんでしたら、二番隊全員で食えるようにお願いします」
と言って、悠々と立ち去った。
 その後に現れたのは四番隊の荻堂だった。何かの薬品が入っているらしい瓶が大量に入った箱を抱えて歩いてきたのを京楽が呼び止める。瓶がぶつかる硬い音をたてて、荻堂が無表情で首を傾げてやってきた。無表情だが綺麗な顔をしている荻堂は、実はもてるということを日番谷は乱菊から聞いたことがあった。なるほど、適任かもしれないと日番谷は頷く。
「何でしょうか」
「君さ、バレンタインのお返しってどうしてる?」
 京楽の問いに荻堂はもう一度、軽く首を傾げた。そして無表情のまま、
「小さなお菓子に加えて花一輪を贈りますが」
と答える。
「花か。なるほど、その手があったか」
 浮竹が何故かしきりに頷いた。
「特に今は技術局が開発した、色褪せず生花にしか見えないドライフラワーとかありますからね。その辺を……長持ちはしますが、必ず枯れるところも気に入っています」
「どこか意味深なところもいいね。花か、うん」
 荻堂の説明に、浮竹は真剣に頷いている。その様子を半眼で日番谷は見上げていたが、荻堂に眼を向けると、
「特別な場合はどうするんだ?」
と聞いた。荻堂がきょとんとして、
「日番谷隊長は特別な方に贈られるのですか?」
と逆に尋ねてくる。京楽と浮竹が両側で吹き出し、日番谷は憮然として黙り込んだが、荻堂はそれを気にすることなく、少し考え込んだ。そして、
「……特別な場合はですね、まあ、僕も照れ屋なものですからなかなかお伝えできないのですが、貴女は特別ですよということをお伝えしますよ。ええ、それはもう念入りに徹底的に骨の髄まで叩き込むように」
と淡々と言った。
 無表情の綺麗な顔を見上げて、お前が照れ屋なら他の野郎はどうなるんだと心の中で叫びつつも荻堂を敵に回したくはなかったから、日番谷は何も言わずに頷いた。



続き→





 はい、あとがきですよー。ええと、京楽隊長と浮竹隊長に挟まれて足をぶらぶらさせて座っている日番谷さんを書けたので満足しています。
 最初、一番隊副隊長我らが長次郎さんもご登場願おうかと思っていたのですが、長くなってしまうので泣く泣く止めました。泣きました。大前田と荻堂君はさらりと、慣れているぞ、という雰囲気が出たらいいなと思いつつ。ちなみに、荻堂君が花、というのは、彼が「色男金と力はなかりけり」というお人なので(八席だからそれなりにはもらっていると思うけど)、そう高価ではないけど喜ばれる、というものを選んでそうなりました。本当はこの川柳を口にして欲しかったのですが、それは次回にまわしました。


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