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12 さらし者
ときどき、ギンは考える。 平隊員だった頃の大部屋で一人寝遅れて天井を眺めているとき、隊長室でふと一人になる瞬間、藍染と東仙が話している背中をぼんやりと目に映しているとき、藍染を殺した疑いを持たせるために煽っていた雛森に睨まれた瞬間、丘の上で乱菊に抑えられていた柔らかな香りに包まれていた時間を止めたかったあの短い時間、遠くなる山吹色の輝きを眺めていた間、夜の世界で骨を纏う虚達に囲まれていた退屈な日々、反転した月を眺めて昔を思い返す一瞬。 自分の求める未来で、乱菊はどうしているのだろう。 ギンは思う。最善の未来は、自分も藍染も東仙も滅びていることだ。この世界は現状を維持することを選択し、緩やかに腐りながら、全てはいつか滅びるという理に逆らうことなく流転する。腐り、崩れ落ちるこの美しい世界。乱菊は世界が滅びる前には緩やかに消滅を迎えるだろう。皆に看取られ、惜しまれ、愛されて愛されて、静かに世界に溶けていくだろう。そのときほんの一瞬だけ、自分のことを思い出してはくれないだろうか。そんなことを願い、願ったことを悔やんで打ち消してギンは苦く笑う。 そんなことを望んではいけない。 ギンの思う未来で、ギンは世界を転覆しようとした愚者として嘲笑されるのだから。
ただ。 ギンは思う。ただ、晒し者になった自分を見て乱菊は何を思うのだろう。 愚かな自分の骸を見下ろして、乱菊は何を思うのだろう。 泣いてまうかな。 呟いて、ギンは頭を振る。泣きはしない。でも、彼女はひっそりと哀しんでくれる。 誰にも打ち明けず、全てを飲み込んで、哀しんでくれる。
でもそれも全て時の流れに飲み込まれるから。 いつか乱菊の中で過去の一場面に落ち着いてしまうだろうから。 乱菊には楽しいときがあるから、幸せな時間があるから、愛し愛される仲間とともに築く時間があるから、あるはずだから、あるに決まっているから。 自分との時間は押しやられていい。むしろ押しやられて隅のほうで朽ちていく記憶にならないといけない。 楽しくて美しくて幸せで満ち満ちている時間があるはずだから。 ギンは思う。思いこもうとする。 自分との時間がなくなったとしても、生きていれば、生きてさえいれば、楽しくて美しくて幸せな時間はくるから。
あの人間の少年は、人間として生まれ、育てられた少年は、強くなってくれるだろうか。 橙色の髪をした少年。 周囲の大人達の思惑を知らずに育った少年は、強くなった。だが、まだ、途中段階で、自分と戦う彼の顔はまだあどけなさを残す少年の顔で、自分との戦いでは育ち切ることは難しそうで。
決着つかない場合は、地獄に堕ちるしかないやろな。 それも時間稼ぎにしかならないことをギンは知っている。もしそこで東仙も藍染も滅ぼすことができたとしても、自分はもうこの世界に戻れないことをギンは知っている。 でもそれは望んだことだ。 三人全員、この世界から消えたほうがいい。 世界を憎んだものとして。
世界はそれすらも飲み込んで流れゆく。
だから世界を君に遺そう。 世界は全てを飲み込んで君に美しい日々だけをくれるはずだから。
「no title」の流れに沿うように、かつ、少しでもWJの展開に沿いたくて(失敗していますが)書きました。独白です。
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