G*R menu


ぼくらはただそうやって世界を手にした 3

 ギンが乱菊を拾って十数日が経ったある日、ギンは乱菊の手を引いて森へ行った。秋の森は、これから冬に向かう最後の晩餐のように食料が多くある。これからの保存食を作るためにも、今日一日の食料を得るためにも、ギンは歩き回って食べられるものをかき集めた。木登りなどはギンが行い、乱菊は芋掘りや低木の果実を採っていた。
「乱菊、どうにか食べもん集まったで。こっちには実ぃあるわ。こっち来ぃや」
 ギンは乱菊を呼び寄せると、低木になっていた赤い実を一つ摘んで乱菊の口の中に放り込んだ。乱菊は少し驚いたけれど、黙ってそれを噛んだ。甘酸っぱい味が口の中に広がり、乱菊は自分の顔が久しぶりに綻んだのに気づいた。
 あ。
 荒みきった世界が柔らかくなった。急に目の前が明るくなった。口の中の甘酸っぱさが体中の感覚を澄ませたように思う。乱菊は綻んだ顔のままギンを見つめた。こうやっていられてよかった、あのとき死ななくてよかった、この人に拾われてよかった。お腹の底の方から暖かいものが沸き上がる。この感情がなんという名前なのか乱菊には分からない。ただ、なんか言葉にならないかな、と少し考えて、一言、
「ありがとう、ギン」
と言った。
 乱菊は確かに微笑んでいた。少女らしい、けれどとても綺麗な笑みで、それを見るのは初めてだったギンは、ただぽかんと口を開けて動きを停止していた。見惚れていた。初めて感情らしい感情を、しかも笑顔を見せてくれたことにギンは感動すらしていた。かわええなあ、綺麗やなあ、お人形さんやないわ、女の子やわ。こんな子にお礼言われて、ボク果報者やと思っていたら、ギンも自然と笑みを浮かべていた。他人のことは略奪者としか考えていなかった自分の内部に起きた変化に気づかなかった。ここにきて初めて、自分の心が喜びというものを感じていることにも気づかなかった。ただ急に自分を取り巻く気配が鮮烈になって、それが乱菊を中心にして広がっていく様を全身で感じていた。






 世界が変わった瞬間だった。





  G*R menu novel short story consideration
Life is but an empty dream