幸せの王女【アメリナ】

幸せなアメリナ。って言うか、幸せなアメリア。

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 「あんた、泣かされてるね。」
唐突な声がかかったのは、2人並んで商店街を歩いていたときのこと。
振り返り、真っ黒なフードを被った占い師に視線を送る。小さなテントの下、深々と座り込んだ占い師は分厚い前髪の隙間から確かにアメリアを見ていた。
「――わたし?」
「そっちのお嬢ちゃんに、泣かされてるだろう?」
「ちょっとおばあちゃん、何よいきなり」
隣からひょいと身を乗り出して、リナが占い師にくってかかる。
占い師はふっふっと肩を揺らして笑った。小ばかにした態度に、更に何か言おうとしたリナの隣でなぜかアメリアも笑い出す。
「そうですね」
親しみをこめて微笑みながら、硬貨を一枚出して占い師が肘を置く台の上の置いた。それを見てリナがぎょっとする。
「ちょ、アメリア?!」
「毎度あり」
抗議の声に構わず立ち去るアメリアの背中と、機嫌良さそうな占い師の微笑みを交互に見て、リナが仕方なしにアメリアのあとを追う。
隣に追いついてもアメリアは今の出来事について何も言わない。ただ、あの占い師と同じ、機嫌のよさそうな微笑みを浮かべるだけ。
「そりゃ確かにわがまま言ったり迷惑かけたりすることもあるけどさぁ……」
ぶつぶつと呟くリナのうつむく横顔に、アメリアは風のようなキスをした。
「…………っ」
何食わぬ顔で歩き続ける人混みの中、受けたリナですら気のせいだったかと思うようなさり気ないキス。
不確かな感触を確かめるように頬を押さえ、リナがアメリアに問い掛けるような視線を送る。アメリアはそのあどけない表情にも微笑むだけだった。
光の粒が2人の歩く長い道にきらきらと降り注ぐ。

『あんた、泣かされてるね』

眩しそうに目を細めていた老婆の、憧憬を含んだ声音を思い返した。
アメリアは心で静かに頷く。



確かにある

世界で一番幸せと

泣いた夜が。


2006年03月15日(水)
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