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■ 依存症【アメリナ】
椎/名/林/檎の依/存/症を聞いててふと。 現代版、社会人。微妙に初々しい2人。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++
そろそろ帰ろうかと、なんとはなしに携帯で時間をチェックしたときに気がついた。 「あら?」 隣に置いてあった車のキーが無い。しまったんだったかなとバッグを軽く探しても見当たらない。 「帰るの?」 その仕草に気づいたように、リナがテレビを見たままで聞いてきた。夢中なのか気の無い声。 「と、思ったんだけど、鍵が見つからなくて。」 「えー、バッグの中は?」 「見たんだけど、」 「テーブルの下とか」 「無いわ」 「ソファーの下に潜り込んだ?」 「んー、ない。」 「じゃ、諦める。」 「えー」 冗談を軽い笑いで流して、立ち上がり玄関に向かう。入ったところで置いたかもしれない。無意識の習慣がそう変わるとは思わないけど。 案の定目のつくところに鍵は無くて、仕方なく今日立ち入った場所をくまなく歩くことになった。リビングを通る途中も、リナはテレビに見入っていて無反応。別に一緒に探してとは言わないけど、淡白にもほどがあるなんて、少しだけ溜息。 わたしがいつ会いたがったって、嫌とは決して言わないし、帰ると言っても忙しくてしばらく会えないと言っても、同じ顔でうん分かったと言う。誰が来ても誰が居なくてもきっと同じ。 現に今日だって、仕事の都合でそれなりに長く会えなかったあとの、久しぶりの再会だったのに。早足で来たわたしを、リナはいつもの顔で出迎えた。悔しいからさみしいなんて思わない。でもやっぱりさみしい。わたしばかりが会いたいみたい。 2人で並んで立ったキッチンに行き着いて、でもこんなところに鍵を持ってくるはずもないしと表面を目で撫でる。広くもない一人暮らしの部屋で、探す場所はもう無いのに鍵は行方知れずのままだった。 「そこは無いでしょー」 「うん、そう思うんだけど」 リビングからリナののんびりとした声がかかる。まさかと思いながら足を踏み入れてもいないバスルームを覗いてたときですら何も言わなかったのに、今更?と少しだけ思った。 「あきらめればー?」 「そうはいかないでしょ、家の鍵も会社のロッカーの鍵も付いてるんだもの」 相変わらず気のない間延びした声に、もうひとつ溜息。まぁいざとなれば家の合鍵はリナが持ってるし、電車で帰れないこともないし、ロッカーの鍵も説明すればマスターキーを借りられる。 「とは言っても……」 小さくぼやきながら、半ばやけ気味に引き出しという引き出し、扉という扉を手当たり次第に開けてみる。食器棚、調味料入れ、冗談半分に冷蔵庫、野菜室、冷凍――庫……。 「え」 あった。 冷凍庫の、リナの好きなバニラアイスの隙間。控えめに隠すように。 「……え」 もう一度呟いて指を伸ばす。ひやりとよく冷えた鍵の束。確かな感触が見間違いじゃないと主張する。 判断に困ってるうちに、ピーピーと電子音が鳴る。開け放し防止のアラームだった。反射で慌てて閉める。鍵は冷凍庫の中に入れたまま。 ――そもそも今日は冷凍庫を開けてすら居ないし、開けたとしてもそんなところに鍵をしまう習慣は無いし、自分じゃなければそんなことをするのは他にはたったひとりで……。 でもリナが?なんで? そう言えばキッチンに入るときだけ少し視線を感じた気がしたし、わざわざそこはないでしょって。考えてみれば、鍵が無いと言ってから、いつにもまして素っ気無かった気もする。装うかのように。 「えっと……」 頭をフル回転させても何がなんだか分からなくて、ぼんやり後ろ頭なんて撫でながらリビングに戻る。 「ねぇ、リナ、」 「言わないで」 リビングに戻って見ると、ソファーのクッションの山に顔を埋めているリナが居た。わずかに見える耳が真っ赤だった。 ――あ。 あー。あー。えー、っと。うそ。ほんとに? 声にならないどころか思考すらまともにならない。突然想像もしなかった可能性が頭に浮かんで。 もしかして、本当に本当にもしかして――帰って欲しくなくて、鍵を隠したの?なんて。 冷凍庫のアラームで作戦の失敗を悟ったのか、リナは判決を待つ罪人のようにうなだれている。 「リナ、」 「言わないで。……ちょっとした、冗談だから、」 いいの?本当にいいの?期待しちゃうわよ? 「なんの話?」 自分でも驚くほどの冷静な、とぼけた声。リナの沈黙。 「鍵、見つからないから、今日泊めてって言おうと思ったんだけど――ダメだった?」 さらに沈黙。 「リナ?」 ゆっくりとリナが顔をあげた。赤い頬と、見上げる少しだけ潤んだ目。 「……見なかったの?」 「なにを?」 リナの一握りよりわずかで、しかもちょっと歪んだ勇気を尊重して、わたしはあくまでそ知らぬ顔。 探るようなリナの目にそれがどう映ったかは分からないけれど、やがてリナは小さくいいよ、と囁いた。 今日会いたいとか、今から行ってもいいとか、うちに来ないとか、そんなふうにして誘うどんなときの答えとも違う、心音が聞こえてきそうな声で。 そう、だってこれは、わたしが誘ったんじゃなくて、リナが誘ったんだものね? 期待してもいいのかな。はじめてのお泊り。
2006年03月14日(火)
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