プロポーズする殺意:前編【アメリナ】

NEXT終了直後なのでシルフィールも居ます。
長くなったのでまた前後編。の予定。

最後の戦いにリナがひとりで行こうとしたことを、シルフィールはきっとアメリアに言っただろうなぁと。重破斬を使って、自分ひとりの命と引き換えに仲間を守ろうとしたこととか含めて、理屈じゃなく感情が「それは裏切りだ」と思えてしまうアメリア。徹頭徹尾思った通りにしただけだと思っているリナは、良い事をしたとも悪い事をしたとも思って無いし、これから先もそうするつもりだって振舞う。そんなすれ違いがアニメ版だと生じそうで、もえます^^(鬼)
原作版だと重破斬使ったこともその結果何があったかも誰も知らないから、ある意味みんな幸せなんですが。

リナが激しくかわいくないので気をつけてください。でもアニメリナってかわいくないのが仕様ですよね?^^
ついでにアメリアが問答無用ですが、この人怒らせたら怖いって言うのも仕様ですよね?^^

+++++++++++++++++++++++++++++++++++




 ここ数日、毎日のようにその眼差しの中で目を覚ました。朝に限らない。真夜中にも。
「……なによ」
耐えかねて、遂にリナが言ったのはそんなある真夜中だった。薄くぼやけた視界の中で、青い目が確かに自分を見ている。嫌な夢を見たあとだったから、出た声は自分で思った以上に険悪だった。
「最近あんたずっとよね。人のことじっと見てて、なんなの? いい加減、気分悪いんだけど。」
言いたいことがあるならはっきり言えば、と、言いかけた語尾はわずかに掠れた。涙声。そして初めて自覚する。泣いていた。
「……なによ」
まだ何ひとつ言うでなく自分を見ている青い目を睨み返す。泣いてることを指摘されたら逆ギレしてやろうと思っていた。
「――いいえ。ごめんなさい。」
けれどアメリアは、静かにそう言って目を閉じた。
隣り合わせたベッドで、規則正しく聞こえる呼吸。寝息には聞こえなかったけれど、それ以上何か言う気が無いのは間違いなかった。
逆ギレして解消するはずだったもやは晴れないまま、リナは苛立ちごとベッドの中に潜り込んだ。



 翌朝、その眼差しの中で目を覚ますことは無かった。熱を出したリナが起きだす前に、アメリアは近くの薬屋に出掛けていたからだ。
「寝ててくださいね、今、アメリアさんがお薬もらいに行ってますから。」
起き上がりかけたリナを手で制して、シルフィールが困ったように微笑んだ。困っているのは、そう言われたリナが憎々しげに眉を顰めるのが分かっていたからだ。
冥王との戦いのあと、リナは何度か体調を崩した。熱を出したり、水さえ吐いたり、突然倒れたっきり丸一日目を覚まさないこともあった。そのたびリナは周りの心配を「大丈夫」の一言だけで押しのけてきたのだ。
「大丈夫よ」
同じ言葉を繰り返し、制する手を払って体を起こす。
「今日には起つ予定だったじゃない。ガウリイたちには言ってないでしょうね? 予定通り行くわよ」
リナももう意地のようなものらしくて、腹立たしそうに言い捨てるといつもの手順で何事も無かったように朝の支度を始める。
シルフィールは拒絶の色濃いその背中を眺めながら溜息をついた。こうなればどんな説得も通じないのは経験上明らかだ。隙を見て魔法をかけるかどうかで思案しているところにドアが開く。
「あ、アメリアさん。おかえりなさい。」
薬の袋を持って帰ってきたアメリアは、振り返りもせず装備を整えているリナを見てそれからシルフィールを見た。
「予定通り出発、ですか?」
「……ええ、まぁ。」
シルフィールは苦笑いで返す。そんなことできるはずないのは合意の上で、表面的な取り繕い。
「じゃあリナさん、薬だけは飲んでくださいね。解熱剤もらってきましたから。」
「要らないわ」
「それならベッドに戻って寝ててください。出発はできません。」
「あっそ。だったらあんたはそうしなさいよ。あたしは行くから。」
腰に剣を差し、リナは立ち上がる。ドアの前、アメリアの脇を通り過ぎようとしたところで、ほとんど殺気立ったようなその眼差しに気がついた。
――ああ。
真夜中に目を覚まさせるほどの眼差しのわけがやっとで分かる。あれは押し殺した殺意だったのだ。
「……なによ」
三度その意味を問い掛けて、次の瞬間息を詰まらせる。ぐらりと視界が揺らいだあと、強く打ち付けられた背中の痛みに。
「……っ!」
思わず閉じた目を慌てて開くと、間近で見たのは指だった。その指が唇を強くこじ開けた。喉の奥に押し込まれた感触で、ああ薬か、とどこか冷静に思う。喉の抵抗が吐き気を起こさせるが、押し付けられた壁と腕の間で身動きできないまま、薬は胃に落ちた。タイムラグ無しに侵されていくのを感じる。
「魔道薬ですから、すぐ効きますよ。――おやすみなさい。」
遠のく意識の中、財力に物言わせやがって、と、どこか的外れな悪態をついた。

2006年03月11日(土)
BACK NEXT HOME INDEX WEB CLAP MAIL