天国をでていく【四人組】

ゼルリナ→←ガウアメ
特定CPと言うより、みんながみんなを好きな四人組。なのになんか嫌な話です。
リナは幸せとか安定とかと縁遠そうだなっていう話の極論。的な。

written by みなみ




 「夢? あったかい家庭を築くことさ。」
しれっと言う男に、リナは笑った。
「どの口が」
「あんたが言うよりマシだろ」
男も笑いを含んで、火に薪をくべる。夜深く、寝付けない2人は曖昧な会話を繋いでいた。
「あんたは?」
「もちろん、あたしの夢は――あったかい家庭を築くことよ。」
「よくもまぁ、臆面もなく」
くっくっと、ゼルガディスが機嫌良さそうに笑う。リナも微笑んだ。
「やさしい旦那と、元気な子供たち」
「かわいい嫁をもらって、犬を飼うのもいいな」
「真っ白な家に住んで、広い庭には色とりどりの花を植えるの」
「秋には庭のレモンの木に実がなって、子供たちが競って取りに行くわけだ」
「それをジャムにして、焼きたてのパンに塗って食べる」
「毎日同じ朝が来て、」
「毎日同じ陽が暮れる。」
「平和で、やさしくて、」
「あたたかくて、穏やかで、」
「夢みたいな、」
「――夢、さ。」
ぱちりと火がはぜる。森の夜は静かで、眠る2人の仲間の寝息とふくろうの声が溶けるように混じり合っていた。平和な夜だ。
だから2人は寝付けない。
「こんな、決まり文句みたいな夢しか語れないなんて、」
リナは口元に微笑みをたたえたまま、そっと目を閉じる。穏やかな横顔を見て、ゼルガディスがまた薪をくべた。火がはぜる。森の深くの小さな光。
「夢のない話よねぇ」
夜は照らせない。


 化物の咆哮響く中、返り血と自分の血が濃く絡む。吊り上げた唇を、振り上げた剣の陰に隠して駆け抜けた。
「もうっ、ダメじゃないですか! むちゃばっかりして!」
リナの傷口に光を当てながら、ぶつぶつ小言を繰り返す。
「もっと言ってやってくれよアメリア。オレの言うことなんかちっとも聞きゃしないんだから。」
「誰が言ったって無駄さ。そいつはな。」
「ゼルガディスさんもですよ! 肌が硬いからよかったようなものの、やってることは2人とも一緒です!」
眉根を寄せたガウリイの横で笑っていたゼルガディスは、突然自分に向いた矛先を交わすようにひらり空を仰ぐ。鷹がぐるぐると円を描いていた。
「すぐ聞こえない振りするんだから。リナさんもゼルガディスさんも。」
怒りながらも、塞がったばかりのリナの傷を診て少しだけ表情を緩める。
「ありがとう、アメリア。次は気をつけるわ。」
「信じられないけど、信じます。正義ですから。」
呆れ笑顔のアメリアの頭を撫でて、立ち上がるリナも空を見た。鷹は飛び去り、青く晴れ上がる空が天国まで突き抜けている。
「平和ね」
「そうだな」
呟きに、ガウリイとアメリアが笑って顔を見合わせた。
「こんな平和があってたまるか」
「そうですよ、魔族に襲われたばっかりで。ほんと呑気ですね。」


 陽が暮れて、宿屋への道をのんびり歩く2人の影を長く伸ばした。
「ねぇ、ガウリイ。あんたの夢ってなに?」
「なんだよいきなり。そうだなぁ――あったかい家庭を築くことかな。」
てらいもなく返された答えに、リナが隣を仰いでも、見返す眼差しはそれに相応しく気安いものだった。
「あんたが言うと、素敵な言葉ね。」
「なんだそれ」
おかしそうに笑って、リナの頭に手を乗せた。
「他人事みたいな顔しないでくれよ? 隣にはおまえが居て欲しいんだから。」
「なに、それってプロポーズ?」
「難しいことはよくわからん。そうなるなら、そうなんじゃないか?」
あまりにも単純な話だったけど、リナも頷いた。
「あたしにも、むずかしくて分かんないわ」


 陽もすっかり暮れて、太陽の熱が遠ざかる。夜がきた。
身のうちに燃える炎だけを頼りに、旅立つことを決めたその夜。
「ガウリイにプロポーズされたわ。」
「俺はアメリアと夢を語り合ったぜ。あいつの夢は、」
「あったかい家庭を築くことでしょ? 知ってるわ。」
猛る太陽の情熱を受けて、月が燃え上がる。赤い眼差しがその光を照り返すのをゼルガディスがじっと見た。
「――どうしてこんなに違うんだろう。同じ言葉を同じ発音で口にしてみても。」
答えなんてとっくに知っている。
「俺は、」
「あんたはまだやり直せるわ。ガウリイやアメリアと、まだ笑えるでしょう?」
あたしはもう、とリナが呟く。
いつから抱えていたのかは自分でも分からない。ただもう、仲間たちと過ごす幸せの時間と、自分の中の破滅的な衝動が折り合うことは無いと思った。
血管を巡る火の川が急きたてる。石のように冷たい戦場がリナの名前を呼んだ。
もうここにはいられない。


だから今日、天国をでていく。


2006年03月10日(金)
BACK NEXT HOME INDEX WEB CLAP MAIL