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■ 猫のお題:7【ルクリナ】
07.束の間の馴れ合い
あーだと言えばこーだと言って、ツーと言えばカー。 「ある意味めちゃめちゃ仲がいいよな」 「そうね。羨ましくないけど。」 「はは、たしかに。」 ガウリイとミリーナが視線もやらぬその先では、リナとルークが食後の腹ごなしに口ゲンカをしている。どこまでヒートアップしても、手の早い2人がお互いに手を出す気配が無いから、すっかり放任している日常茶飯事だ。 どちらかが言葉に詰まり一拍でも掛け合いのテンポを狂わせれば、それで勝敗は決する。と言うことにどうやら暗黙のうちになっているらしく、たった今も、ほんのコンマ一秒ほどの間を空けてしまったルークがくっと呻いてくず折れる。 「……ちっ、俺の負け……か。」 「ふふん、潔さだけは認めてやるわ。」 どっちが勝とうと負けようと、そのあとの結果は変わらない。距離を置かれた2人の連れの元にそれぞれ戻ってきて、何事も無かったように同じテーブルを囲む。 「あーあ、なんかお腹空いちゃった。すみませーん、レアチーズケーキとブルーベリームースくださーい」 「まだ喰うのかよ。俺にもちょっとくれ。」 「はぁ? やーよ。欲しけりゃ自分で頼めば。」 「1個も要らねぇから一口くれっつってんだよ。」 「だから、お断り。その一口が大きいんじゃない。」 「ケチくせぇな。だから育たねぇんだよ。色んなところが。」 そうこう言いあってるうちにケーキが運ばれてくる。ご丁寧に2つ添えられたフォーク。2人はぎらりと視線を交わしたかと思うとそれぞれ手にとって硬い音を響かせて――噛み合うフォークがぎりぎりと音を立てた。 そうして刃先が一瞬逸れると同時に均衡が崩れ、どちらともなくケーキに向かってフォークを一閃させる。次の瞬間には、それぞれ一口でケーキを頬張っていた。リナはブルーベリームースを。ルークはレアチーズケーキを。 「あぁぁぁぁっ! なんでチーズケーキなのよっ! あんたムースの方が好きじゃない!」 「だからこそ、おまえがこっちを狙ってくると踏んだのさ。俺の作戦勝ちだな!」 「人の注文に手ぇ出しといて何勝ち誇ってんのよ! 大体これのどこが一口なわけ!」 「なんだよ、一口で喰ってんだから、れっきとした一口だろうが!」 未だ口の中のケーキをもぐもぐしながら喧々囂々。行儀が悪いし煩いしで、ミリーナが深い深い溜息をつく。 その溜息に敏感に反応したルークが取り繕おうと口を開きかけたところに、リナが胸元ひっつかんでその口を塞ぐ。 「……っ?!」 しばらくの長い沈黙――テーブルについた4人のみに限らない、店中すべてを包む完全な静寂――ののち、リナは唇を離し、もぐもぐごっくんと口の中のものを飲み下し、そして口元を拭いながら満面の笑みを浮かべた。 「ちょっと味が混ざっちゃったけど、これならまぁ、引き分けね。――それに、一個は要らないんでしょ?」 「……お、おま、」 口をぱくぱくさせたのはガウリイだった。ルークとミリーナと、騒ぎに視線をやっていただけの善良な客たちは未だ硬直から脱せない。 「ん? どうしたの、ガウリイ?」 「……おまえ、手段選ぼうぜ……もう少しだけでいいから……」 完全に目的の為に色んなことを見失っているリナはきょとんと首を傾げ、しばらく頭を悩ませていた。
我に返ったリナとルークがどうしたか、そんなことは怖くてとても記せない。
ルークもリナも馴れ合う気は無いとか言ってるくせに仲良すぎる件への言及。のわけはまさかない。ただ、どっちもお互いに油断しすぎてるとは思う。
2006年02月25日(土)
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