猫のお題:4【ガウリナ】

04.寝転び降参


 「いい加減にしろ、おまえは!」
今日も今日とて取っ組み合い。なんて、別に毎度のことと言うほど頻度は高く無いが、珍しいとも言いがたい。それでもやっぱりそうそうあることでもない。ガウリイがリナに手をあげるなんて言うのは。
「ちょっと、やめてよ! ずるいわよっ! あたしがあんたに力で勝てるわけないじゃない!」
ベッドの上でもがきながら、リナはガウリイの腹を蹴る。肩を掴まれては手が出ない。腹を蹴ろうとリナの細い足では硬く引き締まるガウリイの腹筋はビクともしない。これはずるい。これだけの実力差がある相手に実力行使をするのはいささか大人気無くはないだろうか?
「何がずるいんだよ。おまえさんいつも魔法でオレをふっ飛ばしたり眠らせたりふっ飛ばしたりするじゃないか。あれはずるくないってのか?」
「ずるくない! か弱い女の子があんたみたいな体力バカにちょっとばかし魔法を使うのなんて、かわいい抵抗じゃない!」
「それのどこがかわいいんだ! 大体誰がか弱い女の子だって? か弱い女の子は保護者の言いつけを守らないで盗賊いぢめになんか行ったりしないんだよ。世間様一般ではな!」
言い合ううちにも2人はじたばたとベッドの上で攻防戦。リナは大人気無いと言うけど、ガウリイは大人だ。本気になればリナをじたともばたともさせないで拘束できるのにそうはしない。
腹を蹴られようがすねを蹴られようが腕に噛み付かれようが罵詈雑言を浴びせられようが暴れすぎてわずかに肌蹴た胸元やうっすら汗の滲んだ首筋に色気が香ろうが、それ以上のことはしない。リナには抵抗の余地と安心感を与えたまま。
そうしているうちに、暴れるのにも文句を言うのにも疲れて飽きて、リナは大人しくなる。
「……もうさ、あんたの頑固さには恐れ入るわ」
「オレが頑固? オレは理性的なだけだよ」
リナの問答とは違う答えにわざとすり替えて、少しだけ愚痴る。苦笑いに、リナは溜息ついて。
「理性的に考えるなら、盗賊いぢめがどんだけ有益で意義のあることか分かるはずだわ。」
そう言って、今まで固くリナを押さえつけていた腕が簡単に外れることを知っているかのような仕草で、ひょいとガウリイの腕を払う。案の定それはあっさりと離される。
またがるガウリイの下で、疲れたように眼をこすりながら欠伸をひとつ。
「もう寝る。盗賊いぢめに行く元気なんか無くなっちゃった。」
「そりゃ何よりだ」
足元でわだかまる布団を引き上げかけてやり、揺らさないよう静かにベッドから降りた。
「おやすみ」
理性的な大人はやさしく言って部屋を出る。
子供の信頼を得るのは簡単だ。小賢しい大人にはすぐできる。無防備に腹を見せ寝転んで、ふてくされ顔で参ったなんて言わせるのも。
難点は、これでいいのかと何度も自分に問い掛けなければいけないことだ。
深夜の中で冴え冴えとした意識を持て余し、ガウリイはそんなことを一晩中考えていた。

2006年02月22日(水)
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