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■ 猫のお題:2【シルリナ】
02.飼い主の手中の居心地
リナは自由だ。危険と労力を伴う本物の自由を持っている。 それはリナの誇りであって、単純に生き方だ。性癖とも言えるだろう。 だからこそ、リナを管理することは大変なのだ。 「あのねぇリナ、わたしだって、言いたくて毎日毎日小言を言ってるわけじゃないのよ。分かるでしょう?」 溜息混じりの疲れた声が、ようやく止んだ詠唱の語尾から続く。リナは塞がった背中の傷にタオルを羽織り、そのままベッドに転がった。そして同じくらい疲れた声で。 「分かってるわ。あんたの言いたいことはよく分かる。だから今日はもう寝かせて。」 「ダメよリナ。ちゃんと聞いて。犬や猫だって、悪さをしたときに叱らないと自分がなんで怒られたのか分からないそうだから、とにかくやっぱり今じゃなきゃダメなの」 「犬猫と扱い一緒って。」 疲れで頭の回転が緩いのか、アメリアの言葉には覇気が無い。それでもちゃんとお説教をしようとするんだから、えらいなぁと他人事のようにリナが思う。 そこに横手から別の声がかかった。今しがた帰ったばかりのシルフィールだ。 「それなら、私がよく言って聞かせます。アメリアさんは先に休んでてください。お疲れでしょう?」 事情が分からずともいつものパターンでしょうとばかりに、シルフィールは肩をすくめた。実際いつものパターンなので、アメリアも少し考えてから頷いた。 「じゃあお願いします。すみません、押し付けちゃって。」 「いいえ、こういうときはお互いさまじゃないですか」 「なんなのよその連帯感は。」 うつぶせるリナのくぐもったツッコミは届かない。アメリアはリナの頭をぽんぽん叩くと、「がんばってね」と残しベッドに沈む。寝息はすぐに聞こえてきた。 「相当お疲れみたいですね。今日は何をしたんですか?」 「一昨日こっそり行った盗賊団の残党が無駄に小知恵の周る魔道士をたくさん雇って報復に来たのを返り討ちにしてるところでしくじったの。ったく、あいつらのせいで丸1日無駄にしちゃったわ。」 丸1日のどのタイミングからアメリアが巻き込まれたのかは知らないが、それはアメリアの心労も相当なものだっただろうとシルフィールは同情する。 「ダメじゃないですか、リナさん。やるときに徹底的にやらないからそういうことになるんですよ。」 「はいはい分かってるわよ、これに懲りて勝手に盗賊いぢめになんか行くなって……今なんて言った?」 「ですから、復讐心が起きないくらいに圧倒的な実力差を知らしめるか、そもそもそんなことも考えられないような状態や、考えても実行できない状態に全員しておくとか。そういうところでリナさんは詰めが甘いんですよ」 「おいまて聖職者。」 「なにか?」 「澄ました顔でなにか?とか言うなあぁぁぁっ!」 叫び出すリナの口元に人差し指を寄せて、シーっと息を吐く。 「アメリアさんが起きちゃうでしょう? たくさん迷惑をかけたんですから、夜ぐらいゆっくり寝かせてあげてください」 そうと言われればリナだって黙るしかない。迷惑をかけた自覚ならあるのだ。自業自得なのも分かってる。アメリアが巻き込まれたことを、口にこそしないが悪かったなと思ってる。アメリアが疲れきっているのが、体力的なことでは決してなく、自分を心配し続けたからだということも……うん、分かってる。 何も言えなくなっているリナに、シルフィールは何も言わない。始まる気配の無いお説教の前に、リナがぽつり「ごめん」と呟く。 「……これからは、気をつけるわ」 目を伏せ言うリナにシルフィールは微笑んだ。 「そうですね。完全に駆逐する気が無いのでしたら、その方がいいでしょう。」 「まだ言うかあんたは。」 「それじゃあ、私たちもそろそろ寝ましょうか。リナさんも疲れたでしょう?」 そうしてあっさりと会話は終わる。小言のひとつも言わなかったけれど、リナに考えさせるべきことはすべて考えさせて、言わせるべきは言わせて、改めさせるべきを改めさせた。 リナの自由を尊重したままで。 あぁ、上手く転がされてるんだなぁあたし。 と、リナはぼんやり思考する。 転がされてると言うより、両手の中の小さな泉で、悠々泳がされてるイメージ。 上手に騙されて、自由気取りも満喫できて、その上でちゃんと守ってくれて、なんて上手なしつけの仕方。 心地良さに、うっかり飼い慣らされている。
2006年02月20日(月)
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