不機嫌な5のお題【アメリナ】

不機嫌な5のお題から「仲間外れ」




 日は高く昇り、昼食時の賑やかさも一段落した頃、アメリアが溜息をひとつついた。
宿屋の一階の食堂は、食後の一杯でくつろぐ客が何組か居るだけで静かだ。だからその小さな吐息はガウリイの耳にも迷わず届く。
「どうかしたのか、アメリア?」
「どうかしたのかじゃないですよ、ガウリイさん。よくガウリイさんは平気ですね。」
どこか感心すら含めた声で、不機嫌な少女はのんびり砂糖菓子を齧ってる男に言った。
男はああ、と苦笑いする。
「慣れてるからなぁ。オレはリナの顔、最高で4日見なかったことがあるぞ。ドア越しに気配があるし、夜中とか早朝にメシは食ってるみたいだから、盗賊いぢめに行くよりは心配もないだろ」
「そういう問題じゃないですよ。」
保護者ならそういう不摂生も注意したらどうかと思いながら、彼自身がそういうことに無頓着だと言うことを考えれば無理も無いのだろうと口をつぐむ。怪我だとか病気だとか、死ぬだとか、分かり易いことにしか干渉しないのだ、彼は。
そうでなくても、今の自分の気持ちは分かりづらい方の部類に入るのだろうけれど。
 いや、そう繕ってるだけで単純なのかな? 子供っぽいくらい。

 宿の1人部屋に戻って、することの当ても無くばふっとベッドにうつ伏せる。城のベッドとは違う。乱暴に跳ね返る弾力、埃っぽい匂い、旅に出てから新鮮だった何もかもが今はただ、無性に苛立たせる。
「いいなぁ、ゼルガディスさんは。」
今頃となりの部屋で、丸1日と数時間、リナと額を突き合わせ魔道書の解読をしてるだろう男の顔を思い出す。少しぼんやりとした像を結ぶその顔。1日半で薄れ始めた記憶とは対照的に、きっと何年経っても鮮やかに思い出せる少女の顔。もうひとつ、ついさっき自分の目の前で控えめに笑った顔を自由連想する。彼もまた、その場に居合わせなくてもその場に居るように、彼女たちを理解し受け入れている。自分だけが仲間はずれだ。
例外的立場と言うのなら、自分は産まれたときからそんな立場には慣れているはずなのに。
どうしても、気に入らない。
今頃自分のことなんて少しも考えてないだろう少女のことで頭をいっぱいにしながら、枕に深く顔を埋めた。

 結局暇をつぶすことすらできないまま、鬱屈した気持ちを夜まで引きずる。そうしてまた、彼の苦笑いと向かい合う。
「大変だなぁ、アメリアも。」
「そんな顔してます?」
「ああ。無理にでも呼んで来るか?」
「いいですよ、別に。」
会えないことが嫌なわけじゃない。同じ気持ちを共有できないことが嫌なのだ。
上の空で目の前に座られたら、それこそ大変な顔をしてしまう。
「そんなことより、冷めないうちに食べましょ。」
答えも待たずに食べ始めるアメリアを見て、ガウリイはまた笑ってしまう。

 気を遣って部屋に呼んでくれたガウリイとの他愛無い話を切り上げて、部屋に戻る途中、廊下の窓からきれいな三日月を見上げた。随分夜も更けていた。
昼間ずっとぐずぐずとベッドの上に居たせいか一向に眠気は無い。温かい飲み物でもと思って降りた食堂。席に着きかけたところで聞きなれた声がする。
「あーもう、体ばきばき」
「目処も立ったことだ、今日は少し寝ろ。」
「そうするわ。あんたは良いわね。無理のきく体で。」
「嫌味か?」
疲れては居るようだが満ち足りた声で、2人は階段を降りてきた。少女の方が先にアメリアに気付いて軽く手をあげる。
「あれ、どうしたのアメリア。こんな時間に。」
「あら、リナ。久しぶりね。」
「久しぶりって。昨日会わなかっただけじゃない」
冗談と思って笑い飛ばすリナに、アメリアも笑みを浮かべる。怖いものを感じ取って、ゼルガディスが身を引いた。
「ほんとあなたは、頭にくるわ。」
「はい?」
突然笑顔で言われた言葉に、リナの表情が固まる。アメリアはリナの後頭部を掴んで引き寄せて、唇に強くキスをした。
「…………〜〜っ?!」
「なっ、なっ?!」
突然のことにリナはもちろんゼルガディスも激しく動揺する。一瞬後身を離したアメリアだけが平然と、
「じゃあ、おやすみなさい。」
言い捨てて階段を昇っていった。
リナとゼルガディスの硬直はしばらく解けず、運悪く居合わせた数組の客も、酔いが醒めたようにそんな2人を見ていた。
「ええと、なにか召し上がりますか?」
見かねた店主が、何事も無かったふうを装って声をかけたところでようやく2人は動き出す。ぎこちなく。
「あ、ああ、そうだな……。あー、どうする……リナ?」
困惑しきって尋ねたゼルガディスに、リナもしばらく困って見返していたが、やがて視線を泳がせて小さく呟いた。
「……あたし、いいわ。ちょっと……行ってくる。」
どこへ、とは言わなかった。しかしゼルガディスは察する。
「あんな現場に立ち会うのは二度とごめんだからな。こじらすなよ。」
「善処するわ」
ご機嫌斜めなお姫様のご機嫌取りに、鈍くて不器用な少女はどうでるか。考えたくないが考えて、ゼルガディスは去り際の背中にもう一声。
「……少しは休めよ」
「……善処するわ」

 翌朝、取りあえず機嫌は直ったらしいアメリアと、魔道書はもういいのか?と呑気に笑うガウリイと、昨日の結果が気になって降りてきたゼルガディスの3人で朝食を取った。
リナはやっぱり降りてこない。
にこにこしたアメリアが、リナの分の朝食を持って二階に上がっていくのを、男性陣2人が薄笑いで見送った。



 リナはどうやってアメリアの機嫌を取ったのかって言うと、……がんばったそうです^^

2006年02月17日(金)
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