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■ めんどくさい恋人【アメリナ】
2人揃ってめんどくさい^^
「ちょっと待ってってば!」 人と言う人をごめんなさいすみません通してくださいと押しのけながら、人波に難なく吸い込まれていく小さな体を追いかける。 こんなときは、あの省スペースな体が腹立たしい。なんて言ったら、尚更機嫌を悪くするから絶対言えないが。 そう、呼び止めるアメリアに背を向け早足で通りを抜けていく少女――リナは今、機嫌が悪い。ほんのついさっきまで、お祭り騒ぎの表通りを2人並んで機嫌よく笑っていたのに。 「もうっ、なんなのよ」 思い通りに進めないままリナの明るい髪色が遠ざかっていく。ただでさえ小さな体がどんどん小さくなっていくことに、苛立ちと焦りが込み上げる。 アメリアは視線を巡らせて、細い路地を見つけて駆け込んだ。人混みから解放されて一息をつく間も無く呪文を唱える。 「浮遊!」 屋根の高さまで浮かびあがり、心で小さくごめんなさいと呟きながら足をつき屋根から屋根へと走り出す。身軽な体は何に遮られることもなく、あっという間にリナに追いついた。 リナが大通りを抜け広場に着いたところで、もう一度呪文を唱えてリナの頭上からふわりと飛び降りる。 「わっぷ!」 ろくに前も見ずにずかずか歩いていたリナは、突然現れた人影にブレーキも間に合わず思いっきり突っ込んだ。 幸いなことに当たったのはやわらかい胸で、痛みはない。だけどリナにはその慣れた感触が余計に嫌だった。 「……ちょっと、邪魔。」 「知らない」 「知らない、じゃなくて。どいてよ。」 言いながらも自分で進路を変えて通り過ぎようとする。予想の範囲内と言うように、アメリアがさっとリナの腕を取る。本気で振り切ろうとしても力で敵わないことは分かってるので、リナはほとんど力もこめずにアメリアを睨みつけた。 「触んないでよ」 「何を怒ってるのよ? わたし、何かした?」 「……知らない」 「知らない、じゃないでしょ。ちゃんと話してくれなきゃ分からないわ。わたしが悪かったなら謝るから。」 「…………」 つくづくアメリアは正論だとリナは思う。わがままは自分で、理不尽も自分だ。確かにアメリアが悪いわけじゃない。だけど自分ばっかりが悪いわけでも無いと思う。 「ねぇ、リナ。どうしたの?」 アメリアはやさしい声を出した。伏せかけた目の奥を見ようと、少しだけ身を屈める。出会ったときからあった身長差はますます開いている。 いたたまれなくなって、覗き込まれないように自分から真っ直ぐアメリアの目を見詰め返した。 「あのさ、」 「うん」 アメリアは真摯に頷いた。ばかばかしいことを言う自覚のあるリナは一瞬ためらって、それでも喉に溜めた分の言葉を精一杯吐き出そうと声を絞り出す。 「あたしだって、女だし、」 「……うん?」 意外な言葉に首を傾げながらも、腰を折ることなく続きを促した。 リナは一回唇を結んでから、自分でも情けないと思うような頼りない声を出す。 「思春期みたいな、めんどくさいことだって言うよ?」 「…………」 「お祭り、一緒に行けて嬉しかったのに、あんたが、フィルさんにおみやげ買ってこうかなぁなんて言うから、あぁ、アメリアはセイルーンに帰るんだって……急にさみしくなって……あー、もう、……なに言ってるんだろ、あたし。」 めんどくさいなぁ、なんて、自己嫌悪なのか恥ずかしいのか、どうしていいのか分からないと言う顔で頭をかく。 はたと、半ば硬直してるアメリアに気付き、呆れられたかと我に返る。 「あ、でも、もう頭冷えたし。ごめん、そろそろ戻ろうか。ごめんね、ほんと。わけ分かんないこと言って……」 「リナ、」 慌てて取り繕おうとしたリナの言葉を、アメリアは変わらず真摯な眼差しで遮った。 「ど、どうしたの、アメリア?」 「今すぐセイルーンに戻ってパレードを出していい?」 「……は?」 「それから今のセリフを横断幕にして城壁に貼りだして、」 「…………えーと?」 「祝砲もあげて、国中総出でこの出来事をお祝いしたいと思うんだけど、」 「……と、取り合えず、却下ね?」 「なんでよ?! リナが……あのリナがっ、乙女心なんて言っても分かんないんだろうなぁと思ってたリナがっ、やきもちなんてどうせわたしが焼く一方だと思ってたリナがっ、気まぐれにさらっと来てさらっと帰っていくリナがっ、さみしいなんて食事が足りないときか盗賊が居ないときくらいしか言わないリナが……っ!」 拳を握り締め、心なしか目に涙を溜めて、いつになくホットにアメリアは言い募る。 リナですらうわぁと思うくらいドライなところのあるアメリアがここまで熱くなるのを見て、リナは引くを通り越して、なんか悪いことしたなぁ……なんて思っていた。 もう少し日頃から愛情表現しよう。周囲の視線集まる中、リナは心に固く誓った。
2006年02月15日(水)
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