赤花【ヴァルリナ】

ヴァルリナ→ガーヴ

written by みなみ




そこに憎しみがなかったことを知っていたか
愛しささえ覗かせていたことに、気付かなかったのか



「俺たちは、良く似ている」


彼はそう言った。
兄弟に向けるような、親しげな笑みを見ただろう?







 金色の瞳が、眩しそうに細められる。彼の目にはいつも赤が映っていた。
「おまえが殺さなければ、俺は今でもあの人といられたんだ」
真っ直ぐな眼差し。今はもう、彼女だけを見ている。
その色の中に、同じ色を重ねて。
「女々しいわね。いったいあいつから何を学んできたのよ。あんたは」
リナは面倒臭そうな素振りを見せて、男に背を向けた。
彼の言葉は的外れで、(無論彼自身も承知の上だろうが)責める相手を間違えている。
けれどそのことには一切触れず、リナはただ背を向けて、歩き出した。
その小さな背中に、彼はまた、光を見たときのような仕草で瞬きをする。
「おまえに何が分かる。俺のことも、あの人のことも知らないくせに」
深夜の静寂を切り裂く溜息。
振り返り暗闇に覗いたのは、色褪せない赤。
「……ヴァルガーヴ。あんたこそ、いったい何を理解出来てるって言うのよ? あいつがあたしと戦った理由は? あいつが最期まで想ってたことは? あんたに答えられる?」
無様な傷の残る彼の体に、平行に向けられた小さな体。どちらも目を背けたくなるような痛々しさが覗いている。
それでも彼女は真っ直ぐ背筋を伸ばして、黙り込んだ彼を見た。
「あたしは答えられるわ」
夜の常闇。
それは深く、果てしのない。
全ての色を呑み込むほどに。
「あした、あたしがあんたと戦う理由と同じよ」
ぽつんとひとつ。
どこにも混じれない赤色がひとつ。
「そして」


目を惹く色。
どんなに遠くても、どんなに小さくても。
それと識別できるたったひとつの色。
目指す星に相応しい鮮やかな色を、持って生まれたその意味は。


「……多分、あんたがあたしに勝てない理由だわ」









「俺たちは、良く似ている」


恐怖と畏敬と、わずかな好意を抱いて
彼女は男を見上げた。
生を受けたその日
もっと形の違うものであったなら
例えば手を握ることもできただろう。


けれどそれさえ一瞬。


交わした視線の後先に、どちらが先に笑っただろう。
同じ色の誓いを掲げ、過ちさえも塗り替える華やかな花火があがる。
それが合図。


「さあ始めよう。生きる為の戦いを」














「あんただけじゃない、あたしだってあいつを愛してたわ」

同じ思想、同じ信念、同じ色。
出逢ったその瞬間感じた郷愁は、家族へ向けるもののようだった。
体に触れて、全てを交え、喘ぎ声を洩らして。
たった一日だけ、愛し合った恋人を想う。

それはまるで、花火のよう。




「出来るなら、この手で殺してあげたかった」


2006年02月08日(水)
BACK NEXT HOME INDEX WEB CLAP MAIL