寝かしつける3のお題【フィリリナ】

2:病気(ケガ)の場合


 裸足の裏に芝生の感触を感じながら、力なく垂れる枯れた枝に手を伸ばす。
力を入れればすぐにぱきりと亀裂が入る。折らないように、やさしくやさしく指を這わせた。

「ダメでしょう、ベッドに居なくちゃ」

風が吹き、かさかさと枝が揺れる。振り返りもしないリナの小さな白い手に、同じくらいやさしい手つきで大きな手が這わされた。

「言いつけを守らないと、鬼が食べにくるわよ」

ヒナの体を温めようとする親鳥のように、フィリアはそっとリナを抱きしめる。
背後の大きな温もりを感じながら、春はきっと、女の人の胸からやってくるのだと思った。だからこんなにも温かくて、甘い花の匂いがする。

「鬼がきて、あたしを食べるの? フィリアみたいに?」

そして冬を殺す残酷な手つき。
くすくす笑う声は春の花のように、雪のように冷たいリナの肌を夜毎に溶かしてしまう。真っ白な眠りの中に現れてはピンク色の花を咲かせ、静かな夜を壊して春の鳥を鳴かせる。
リナはもう雪に埋もれて眠りたかったのに、そのたびにフィリアは雪を掻き出して、リナを抱き上げ目覚めさせてしまうのだ。

「食べるなら、食べ尽くしてよ、何も残らないように」

リナはさめざめ泣いて、顔を覆ってフィリアにもたれかかった。
リナがここで過ごした季節の分だけ、もう芽吹かないこの木を見てきた。リナも同じだ。もう走れない。
走れなくなったら、自分は生きていけない。
それなのに。

「ここは寒いわ。ベッドに戻りましょう。ね?」

まだ生きろとフィリアは言う。指で、唇で、抱きしめたその胸で。

「暖めて、息を吹き込んで、体の中ぜんぶ、私でいっぱいにしてあげるから」






自由の中でしか生きていけないリナ。
自由を失ってやっと自分の手に落ちてきたリナを、大事に大事にしまっておきたいフィリア。

2006年02月06日(月)
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