|
|
■■■
■■
■ 寝かしつける3のお題【フィリリナ】
2:病気(ケガ)の場合
裸足の裏に芝生の感触を感じながら、力なく垂れる枯れた枝に手を伸ばす。 力を入れればすぐにぱきりと亀裂が入る。折らないように、やさしくやさしく指を這わせた。
「ダメでしょう、ベッドに居なくちゃ」
風が吹き、かさかさと枝が揺れる。振り返りもしないリナの小さな白い手に、同じくらいやさしい手つきで大きな手が這わされた。
「言いつけを守らないと、鬼が食べにくるわよ」
ヒナの体を温めようとする親鳥のように、フィリアはそっとリナを抱きしめる。 背後の大きな温もりを感じながら、春はきっと、女の人の胸からやってくるのだと思った。だからこんなにも温かくて、甘い花の匂いがする。
「鬼がきて、あたしを食べるの? フィリアみたいに?」
そして冬を殺す残酷な手つき。 くすくす笑う声は春の花のように、雪のように冷たいリナの肌を夜毎に溶かしてしまう。真っ白な眠りの中に現れてはピンク色の花を咲かせ、静かな夜を壊して春の鳥を鳴かせる。 リナはもう雪に埋もれて眠りたかったのに、そのたびにフィリアは雪を掻き出して、リナを抱き上げ目覚めさせてしまうのだ。
「食べるなら、食べ尽くしてよ、何も残らないように」
リナはさめざめ泣いて、顔を覆ってフィリアにもたれかかった。 リナがここで過ごした季節の分だけ、もう芽吹かないこの木を見てきた。リナも同じだ。もう走れない。 走れなくなったら、自分は生きていけない。 それなのに。
「ここは寒いわ。ベッドに戻りましょう。ね?」
まだ生きろとフィリアは言う。指で、唇で、抱きしめたその胸で。
「暖めて、息を吹き込んで、体の中ぜんぶ、私でいっぱいにしてあげるから」
自由の中でしか生きていけないリナ。 自由を失ってやっと自分の手に落ちてきたリナを、大事に大事にしまっておきたいフィリア。
2006年02月06日(月)
|
|
|