寝かしつける3のお題【アメリナ】

1:いたずらっ子の場合



 虫も寝静まる真夜中、あたしは気配を殺し音も立てずにひっそりと起き出す。いつものように同室者に眠りをかけようとしたところで――ばっちり目があった。

「……っ」

びっくりして言葉を失ってるうちに、寝起きとは思えないくらいしっかりした動きでアメリアが身を起こす。

「盗賊いぢめ?」

「…………」

口の中に呪文が残っているので、あたしは何も返せない。……どうしよう。このまま唱えちゃおうかな。
などとあたしが考えてるのを見越したか、アメリアははぁと溜息をついた。その一瞬後だった。

「…………?!」

胸倉掴んであたしを引き寄せたアメリアに口を塞がれる。それはすっかり慣らされた行為で、舌に触れられれば反射で唇を開いてしまう。

「……んっ、」

熱い舌が口蓋を撫でると、ぞくぞく背中が騒ぎ出す。小さく漏れた声で呪文は無効になった。それが分かるとアメリアは舌を抜き唇を離す。肩を押して距離を取ったあたしに、にやりと笑いかけた。

「残念だったわね?」

……こいつ。
あたしはあまりのことに返す言葉もなく口をぱくぱくさせた。たちが悪すぎる。仮にも巫女のくせに!

「いい子だから今夜は大人しくしてて」

「……なんでよ」

有無を言わせぬ態度にも上からの言葉にもムッとして、あたしは睨みを利かせる。欠伸混じりのアメリアはまた布団にもぐりこみながら、

「わたし、今日明日は魔法使えないから。あなたが怪我でもして帰ってきたら困るわ」

「そんな理由? じょーだんじゃないわよ、盗賊相手に?」

「無いとは言いきれないし、無かったとも言わせないわよ。」

「……そりゃ、可能性はゼロじゃないけど、復活が必要なケガなんて、」

「ぐずぐず言ってないで早く寝なさい。」

枕の位置なんて直しながら、あたしの不平にも素知らぬ顔でアメリアは目を閉じた。
まんまとはめられたことにも、予定が狂ったことにもあたしは大いに不満で、なんとか意趣返しがしたかった。
考えてるうちに、アメリアが薄く目を開けて不敵に笑う。

「眠れないなら、寝かしつけてあげようか?」

「え、ちょ、」

腕を掴んで引きずりこまれた布団の中、あたしは朝までずっと、もっと腕力つけなきゃなんて思っていた。あとは、口を塞がれても使える呪文の開発をするとか。


……どっちも無駄かな。






この人本当に巫女さんか?


2006年02月05日(日)
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