ブルーベルベット【アメリナ】

15禁くらいのゆるいえろありです。
なんだかどっちもしょうもない子ですが、なんとなくゆるい気持ちで読んでください。
若干むりやりなので苦手な方はご注意ください。

自分で書いといてなんですがなんか違う!納得いかない!後日読み返して耐えかねたら消します。


written by みなみ




 腕を伸ばしたときにはしまったと思っていた。
警告音は激しく鳴り響き、唇が触れ合った瞬間ぴたりと止んだ。


 リナが甘いアルコールをたくさん持って満面の笑顔でやってきたとき、わたしは思わず溜息をついた。
「わたしは甘いお酒はそんなに好きじゃないし、いったい誰がそんなに飲むの?」
「ちゃんとあんた用も買って来たわよ。こっちはあたしの分。」
「そんなに飲めないくせに」
「飲めるわよこれくらい」
「はいはい、それで面倒見させられるのはわたしなのよね」
どうぞとわたしが促すまでもなく、リナはブーツを脱いで玄関をあがる。背中を向けたわたしにぐいとビニール袋を押し付けて「こっちは冷やしといて」なんて言うのを無視して、わたしは先に部屋に入った。
「なによアメリア、連絡しなかったから怒ってんの?」
しょうがないと言うふうに、自分で勝手に冷蔵庫を開けて大量の缶チューハイやアイスなんかをしまっている。あんなに甘いお酒とアイスを合わせて胃に入れられるのがわたしには不思議でならない。
「そんなのいつものことじゃない」
と、自分で言う。
ソファーに座ってテレビを付けたわたしはカウンター越しに、キッチンでグラスを取りだしてるリナを見てまた溜息。
「別に怒ってないけど、なんでこんな時間なわけ?」
リナはそれではじめて気付いたとでも言うような顔で壁にかけた時計を見た。
「思いついたのがこんな時間だから、ってことで。」
「答えになってないしいい加減だし無神経だけど、許すわ。早く持ってきてよ。」
「はーい」
ご機嫌な声で返事をしたリナは、グラスを持ってわたしの隣に座った。

 時計は十一時を指し、テレビもそろそろ深夜番組と呼ばれる枠に入り際どい話題が目立ってきた。
「うぇー、なんでそういうことするかなぁ」
リナは文句を言いながらも、流れる映像から目を逸らさない。科学番組を観ていてもヒューマンドラマを観ていても、低俗なバラエティを観ていても、リナの反応は均一だ。
「なんでも楽しそうね」
「えー別にこんなの楽しくないけどさー」
テレビから目を離さず、上の空で返答する。答えは続きそうにない。
わたしは日本酒を少しだけ口に含んだ。わたしはいいワインは好きだけど、それ以外は別に好んで飲まない。ビールなんて、軽すぎて飲んだ気がしないし、リナが好きな甘いチューハイは胸焼けしてしまう。
フルボディの赤をゆっくり飲み下すのが好きなのだ。
「わたし、そろそろお風呂入ってくるわね。リナは泊まってくの?」
「んー?」
そうとは見えないまでも度数の高いアルコールをためらいなく煽り、リナはまだテレビから目を離さない。そんなに面白いのかと思って目をやっても、何人かの女性が自分たちの恋愛観について語ってるだけで、興味をそそられる内容ではなかった。
「泊まってくなら、着替え出しとくから。」
「んー」
話にならないなと思って、並んで腰掛けたソファーから立ち上がろうとしたとき、突然リナは弾かれるようにわたしの手首を掴んで驚いた顔をした。
「……え、なに?」
わたしよりびっくりしてるリナは目を丸くして、わたしを見ていた。
「リナ?」
困ったわたしはゆっくり座り直して、まだ解放されない手首とそれを握る小さな手を見た。それからもう一度リナの顔を見ると、不思議そうに首を傾げた。
「……どうしたの?」
「わたしが聞いてるのよ」
「違う。今、どこ行こうとしてたの?」
「言ったでしょう? お風呂。」
「そうなの? じゃあ一緒に行く」
言うなりリナは立ちあがり、掴んだ手もそのままで、反論する間もなくお風呂場まで連れて行かれてしまった。

 「それで? なにがあったの?」
夜遅く押しかけてきたり、弱いくせにばかみたいにお酒を飲んでみたり、雨に打たれた猫みたいにひとりを怖がってみたり。
「……別に? 何がって、何が?」
逆に問い返すときは、都合の悪いとき。リナはいつもそうだ。そしてこうして突きつければ不機嫌になる。
「何かあったとき、ただ気持ちを紛らわす為だけにわたしを利用する気?」
「利用なんて、」
「理由も話さないで甘えるだけなら、そういうことよ。」
リナは静かに目を伏せた。
「別れたの。」
「え?」
「別に何があったわけじゃないけど、急に、何か違う気がして、あたしから別れようって言った。それだけよ。」
「……そう」
リナには2年付き合った彼氏がいる。特定のパートナーを持つことが無かったリナだから、それはとても上手くいってると言ってよかった。
――そっか、別れたんだ。
「大変だったわね」
「別に。問題はそこじゃないしね。」
リナは小さい声で呟いて服を脱ぎ始めた。わたしはなんとはなしにその肌から目を逸らし、同じように服を脱ぐ。今、その肌を見てはいけない気がした。声をかけてもいけない気がした。
恋を失って哀しんでるだろうリナとその彼氏に、ざまあみろと思ってるわたしには。


 意識して目を逸らすわたしを置いて、不機嫌そうに服を脱ぎ捨てたリナが、先に浴室に入っていった。シャワーの音。くもりガラス越しの細いシルエット。
ためらってるうちに、リナはもう湯船につかっていた。遅れて入ったわたしがシャワーを浴びてるあいだも、体や髪を洗っているあいだも、なにも言わなかった。
覗き見た横顔はいじけた子供みたいで、しょうがないなと思えるわたしが折れるべきなんだろう。仕方なしに口を開きかけたとき、温めたばかりの体が芯から冷えたのが分かった。

くびもと深く、濃く刻み付けられた跡。

 冷え渡り、氷のようになった体を足首からゆっくり湯船に沈める。伸ばされたリナの足のあいだに体を割りいれると、リナは驚いてわたしを見た。
「ちょっと、」
暖かい感情が残っていれば、わたしだってわたしを止められただろう。けれど冷めきった心は変に勇敢で、もう何も怖くはなかった。
だって今しかないじゃない。ぼやぼやしてる時間はないわ。
がちがちの指先がリナの顎を掴んだとき、リナはその温度にか恐怖にか、小さく身を震わせた。思わず指先に力がこもる。熱いからだを覆うように圧し掛かり、齧るようなキスをした。
「……あめ……っ、」
掻き消えた残りの声は浴室の天井に跳ね返り、卑猥な響きになって落ちてきた。今まで一度も聞いたことがないリナの声。夢の中で……何度も描いた声。
止まらない。どうしても奪いたい。

 滑りこませた舌から逃げるように首を振るのを、顎を強く掴んで押さえ込み、何度も何度も、願ったままに深いキスをした。
離れたとき、足りない酸素を求めるように荒い呼吸を繰り返すリナを見下ろして、わたしは確かに満たされていた。この瞬間をずっと夢見ていた。
2人で居てもひとりだったわたし。
冗談で抱きしめた体はいつもこの腕を笑いながらすり抜けていった。
でも今は違う。
2人でいっぱいの浴槽に背中を押し付けて、後ずさることもできないリナはわたしの腕の中。
「ま、待って……あめりあ、」
呼吸の合間の声を押しとどめて、首元の痣に重ねて口付ける。鋭い痛みにリナは眉を寄せた。強く吸い上げられて、新しく内出血したそこが濃い紫に染まる。
「きれいな色」
「……ぁ、っ」
指でなぞるとリナはまた身を震わせた。わたしの震えも止まらない。熱く沸かしたお湯の中で、2人揃って凍えてるみたいだった。
「大人しくしててね。この状況でどうにもならないことくらい、頭のいいあなたなら分かるわよね、リナ?」
狭い密室の、更に狭い浴槽の中、小さくて薄い体に覆いかぶさるわたしにリナは確かに怯えていた。噛んで含めるように言い渡せば、リナはそれをしっかり理解して哀しげな顔をした。
震える唇にやさしいキスをして、胸まで舌を這わせて降りていく。固くなったところを指で引っ掛きながら、あばらの狭間に歯を立てた。乱暴な愛撫にリナの歯を噛む音が応える。
小さい生き物らしい早鐘の音が、わたしを更に野蛮な気持ちにさせるから。
「……はっ……ぁ、あぁ、」
「……リナ…」
吐息で名前を呼ぶと、リナは涙ぐんだ目でわたしを見た。色んな言葉を飲み込んだ瞳は少し充血していて、ほらやっぱり飲みすぎ、なんてどこか呑気に思った。下腹部に這わせた指にリナが反応して吐いた息は甘い果実の香り。そうリナからは、いつも甘い果実の香りがする。だからわたしは甘いお酒が好きじゃない。
いつもわたしばかりが酔わされる。
「ここ、気持ちいいの?」
するりと這わせた指にリナがぎゅっと目を閉じたのを見て、意地悪く耳に息をかけた。濡れた声が水音の空間で響く。
「…やめ、」
「やめないわ。リナ、分かるでしょう? 何もかも、もうめちゃくちゃなの。」
触れていたい。小指の先でも。こんなにも好きでしかたない。
ダメなのよ。あなたでなくちゃ。
水とは違うぬるりとした潤みに触れて、わたしはぞくぞく興奮する。生理的反射でもいい。こんな状況だから、防衛本能かもしれない。それでも高まる気持ちは抑えきれない。だってずっとこうしたかったんだもの。
「……あ、あぁ、……ダメっ、んっ」
少しでも距離を取ろうとするリナの腰を掴んで引き寄せる。ただでさえ軽い体は浮力を借りてあっさりと水に埋まり、膝裏を軽く持ち上げるだけで簡単に抱えられた。
ちゃぷと、水面が揺れる。
「……っ……!」
不安げに伸ばされた指が首の裏に回り爪を立てる。リナの内壁に立てた爪の痛みと恐らくは連動して、わたしの首筋に深い引っかき傷を残していった。
「や、ぁ……っ、あ、あっ……!」
容赦なく指を増やし、慣らすでもなく激しく抜き差しをし、そうして首筋に絡みつく指が力なく滑り落ちた頃、ようやくわたしは動きをやめた。
息は水面ぎりぎりにまで沈みかけた口元から、細く短く漏れていた。
「…………ん、っ、」
ずるりと指を引き抜くと、リナの体に残った最後の力も抜け落ちる。溺れないようにぐったりとした体を引き上げて、腕にしっかりと抱いた。
リナの顔は青ざめていて、吐き気をこらえるようだった。
「……大丈夫?」
わたしはわたしで上がりきった息で問い掛けた。リナはもう言葉を繋ぐのもつらそうで、静かに首を振る。



 服を着せてベッドまで連れてくると、リナはベッドに深く沈みこんだ。
そのまま寝てしまうかと思ったら、首だけ動かして片目でわたしをじっと見た。
「……ごめんね」
後悔はしていない。だけど罪悪感がないわけでもない。ひどいことをした自覚はある。
「……ごめんねじゃないわよ」
リナは吐き捨てるように言って、またシーツに顔を埋める。わたしはベッドのわきで立ち尽くして何も言えなかった。後悔は、していない、けど。
「やめてって言ったのに」
「……ごめん」
「あたしの話聞く気もないし、あんたも余計なことしか言わないし。頭おかしいんじゃない?」
「…………」
シーツ越しの声はくぐもっているけどはっきりしていて、聞き間違いとはとても思えない。仕方無い。仕方無いわ。泣いたらだめよ、わたし。
「順番がめちゃくちゃなのよあんたは」
言って、痛むのだろう体を苦しげに起こしてわたしを正面から見据えた。
大きめの服の開いた首元から、自分でつけた深い痕が覗く。後悔なんてしていない。今日の思い出だけを頼りに生きられるわ。
「あんたが好き」
たとえリナに憎まれようと。
「あんたが好きよ、アメリア。それを言いにきたの。あんたもあたしに言うことがあるんじゃない?」
微笑むリナを見返して、わたしは呼吸もしないでまだ立ち尽くしている。急き立てるような警告音が鳴り出した。
「アメリア?」
腕を伸ばしたときにはしまったと思っていた。
警告音は激しく鳴り響き、唇が触れ合った瞬間ぴたりと止んだ。

「あなたが好きよ、リナ」


 流星が走り抜ける真夜中。
わたしは泣きじゃくりたい気持ちを抑えてリナにたくさんのキスをした。
リナはくすぐったそうに笑いながらそれを受けて、たくさん愛を囁いてくれた。


2006年01月29日(日)
BACK NEXT HOME INDEX WEB CLAP MAIL