完全なるハッピーエンド【ゼロリナアメ】

原作アメリアはアニメより善悪のボーダーがはっきりしてるので、ゼロスのこと嫌いですよね。同理由で過去かなりの犯罪を犯してきてるゼルも、仲間としては好きだけど、どうかと思う部分もある。原作姫はリナよりシビアでドライだと思います。

written by みなみ




 大きな夜の闇の中に隠れるようにして、2人は口付けを交わした。秘め事らしく言葉は無くて、ただ小さな微笑みだけが、それを愛だと裏付ける。

「……リナ」
完全なる静寂の中、異質の声は大きく響きリナの体を震わせた。
「アメリア」
「アメリアさん」
2人は動揺を隠しとおせると思ってる声で、少しでも夜に紛れようと小さくわたしを呼んだ。今更何を繕っても、わたしは止められないのに。
「リナ、あなた、」
「違うわ」
リナは怖れを振り切るように鋭く遮った。
「魔族と、」
「違います」
もうひとつの声も、続く言葉を許さなかった。
けれどわたしは彼らほどやさしくなくて、健気な想いを踏みにじる。
「恋をしているのね」
はっきりと言葉にすれば、否定の言葉は返ってこなかった。次に違うと言えば嘘になるからだ。
「……なに言ってるのよ、アメリア」
リナは弱々しく笑った。結末は誰の目にももう見えていた。
加速度的に速まる夜は夜明けに向かってひた走る。
「あたしは、」
「リナ、お願い、それだけはやめて」
わたしだって哀しくて泣きそうだったけれど、リナほど悲痛な顔はできない。
きっとこの夜の中、わたしだけがハッピーエンドを迎えることを確信していたから。
「ガウリイさんでもいい、ちょっと嫌だけど、ゼルガディスさんでもいい。他のどんなひとでもいい。人で在るなら。わたしはあなたの幸せを本当に願っている。でも、」
魔族だけは許せない。彼らは完全な悪だ。
「馬鹿ね、アメリア。このあたしが魔族となんて、」
ほとんど泣きそうなリナの脇、魔族が一歩後ずさる。
「笑わせてくれますね、アメリアさん。この僕が人間と?」
「そんなことあるわけないじゃない」
「そうですよ。僕たち魔族は滅びを望むもの」
「あたしたち人間は生を望むもの」
「僕は、」
「あたしは、」
「リナさんのことなんて、」
「ゼロスのことなんか、」
仮面でしかない魔族の表情は動かなかった。リナの固く狭まった眉の下の目は揺れていた。すべての言葉は裏腹だ。
だけど言葉にするまでもない、わたしは2人に愛を見た。

誠実な魔族は嘘をつけない。
誠実な人間も、嘘をつけない。

わたしは自分の弱さを、リナのやさしさを、彼らの想いを、リナのわたしへの想いを盾に、くるべき言葉を待っている。さあ今すぐ言って。わたしの目を見て叫んで。

言葉に詰まった2人は永遠と思われるほどの時間黙りあって、長い長いためらいのあとに
最後の一言を口にした。

「さよなら、ゼロス。もう会わないわ」
「ええ、さようなら、リナさん。もう会わないことを祈って」

木々の隙間から差し込む光に溶かされたように、闇の者は夜が落としたわずかな影の中へ消えていった。
わたしは泣き崩れたリナを抱いて、明けはじめた空の下で微笑む。

愛に嘘を重ねるよりも、永遠に真実を誓うため、彼らは別れを選んだ。
誠実で潔く、健気でぎりぎりだった恋の背中を押した。わたしは悪?いいえ違う。


これが物語のハッピーエンド。

ねぇ、そうでしょう?


2006年01月25日(水)
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