合鍵をください【巫女リナ】

もう誰がメインか分からないので、巫女くくりにしてみました^^

現代パロ。
フィリリナでシルリナでアメリナですが、個人的テーマは「フィリアって信じられないくらいおせっかいそう」って話です^^


written by みなみ




 隙を見せないようにほんの一瞬だけ時計に視線を送ってみれば、この状態になってからなんと既に20分が経過しようとしていた。
リナは長い溜息のように再び口を開く。
「……いい加減、諦めてよ」
「リナさんが、ですよ」
玄関越しの攻防。隙間をあけて様子を伺うように顔を覗かせたリナの前で、フィリアが相も変わらず手のひらを差し出している。
「1週間、合鍵を貸して欲しいと言っているだけじゃないですか。何も悪いことに使うわけじゃあるまいし、いい加減諦めてくださいよ」
「いや。絶対いや。」
「何がそんなに嫌なんですか?」
「理由が嫌に決まってんでしょーが」
「正当な理由じゃないですか。リナさんはいつも決まってこれくらいの時期に風邪を引くんですから、看病する人間が必要でしょう?」
「そんなん、勝手に決め付けないでよ。今年は引かないかもしれないし、万が一看病が必要になったらそんときはちゃんと呼ぶわよ」
「リナさんがそういう人だったら、誰もこんなにしつこくしません。動けなくなるまで無理して、倒れたっきり音信不通。いつもいつもいーっつもそんなことしてて、自分に信用があるとでも思ってるんですか?」
「…………」
「その度に、みんながどれだけ心配してるか考えたことあります?」
「…………」
「それに私は、ルナさんからリナさんのこと頼まれてるんですからね。何かあったら、留守を預かってる私の立場がありません」
「…………」
「観念しました?」
「…………………………わかったわよ」
「よろしい」
しぶしぶと言うのを全身で表現しながら、緩慢な動作でフィリアに合鍵を渡す。フィリアはそれを受け取り、にこりとやさしく微笑んだ。
「これで安心して風邪を引けますね?リナさん」
「そんな安心感要らんわ」


 後日、定例通りリナは風邪を引いた。
季節の変わり目であることに加えて、年末に向けてイベントが立て込むこの時期、ついついリナはバイトに精を出してしまう。
いくらでも入ってくるものだからいくらでも受けてしまい、ついには引いた風邪に気付かないふりをしてこじらせるのだ。
「頭がいいのか悪いのか、こういうときは本当に分からなくなります」
「……やさしくしてよ、しんどいんだから」
「自業自得でしょう?」
言いながらもやさしい手つきで額を撫でたのは、本来ここに居るはずのフィリアではなく、フィリアの大学での友人であり、その繋がりで今はリナ自身も親しくしている黒髪の美人――シルフィールだ。
「フィリアさんから聞きましたけど、毎年のことらしいじゃないですか。天才と呼ばれる頭脳の学習能力は、こういうところでは発揮されないんですか?」
「嫌味は今度聞くってば。……ねぇ、喉渇いた」
「ふふ、でも、リナさんに甘えられることなんて滅多に無いから、たまにはいいかもしれませんね」
フィリアさんが悔しがってましたよと付け加えながら、1人暮らしらしい小さな冷蔵庫に手を伸ばす。
「フィリアが?なんで?」
「1年に一度のチャンスなのに、って」
「……はぁ?」
「たまには頼られたいんですよ。いつもリナさんはひとりでなんでも出来てしまうから。」
「……なんの話か分かんない」
言う間に、リナはシルフィールが差し出した飲み物も受け取らずゆっくり目を閉じていた。
うつらうつら揺れる遠浅の海岸に響く声。
「リナ! 風邪引いたらちゃんと連絡してって言ったのに!」
鍵なんてあってもなくても同じだなと思いながら、少し笑って夢まで落ちた。
夢現に聞いた声がやさしかったから、次に起きたらうんと甘えてやろう。

「みんなリナさんが大好きで、大切なんですよ」

そうね、なんとなく分かったわ。
ありがとう。


2006年01月24日(火)
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