疑疑疑愛疑疑疑【フィリリナ】

本音チェッカーより

written by みなみ




 キスや睦言のような分かり易い現象ではなくて、あまねく空間の中に働く、目に見えないエネルギーの衝突、作用、それからもっと不可解な原子の世界の物語。
そういった不愉快とすら言える、私の思考の至らない根深い部分で、彼女は生命を裏切っている。
人間を、生を願うあらゆる生き物の哲学を、私を、裏切る恋をしている。

「リナさんなんて、」

雨の最初の一粒みたいに唐突で無造作な一言を、彼女は律儀に拾ってくれた。奥深い森のキャンプの夜だった。

「あたしなんて?」

人格を軽んじる言葉に怒るでも不思議がるでもなく、温度を持たないカメレオンみたいな問いかけに、私の方が怒ったような顔をした。

「リナさんなんて、私にだって殺せるわ。ガウリイさんにだって、アメリアさんにだって、ゼルガディスさんにだって、無邪気な村の子どもにだって、簡単に殺せる。
ドラゴンみたいに固い皮膚でも、魔族みたいに虚ろな体でもない。
柔かくて生々しい内臓が、ほとんどむき出しみたいなものなのに、」

「うん?」

リナさんはやさしく頷いた。

「どうして、そんなにためらいなく差し出せるんですか?」

「なにを、って聞いたら怒る? あんたはあたしがそんなの意にも介してないってのが気に入らないのよね?つまり。」

「分からないくせに分かった顔をしないで。私はただ、」

何度も言葉に詰まる私の話を、促しもせずにリナさんは待った。
リナさんはとてもとても穏やかで、私の疑念や怒りにも似た焦りをやさしく受け止めてくれていた。
だから私はこんなにもつらい想いをしているのに、心のどこかはとっくに満たされていて、理不尽なくらい納得している。
もう駄目なんだと。

「……あなたを信じたいだけ」

「あんたは、あたしの何を疑ってるの?」

「簡単に触れさせて……あいつは、あなたを道具のように持ち上げて、上手く使えそうならそのままためらわず振り下ろせるのに、あなたは……あの男に……」

「あー、もういい、大体分かったわ。あんたが何を疑ってるのか。」

リナさんの困ったような笑顔が滲む。光だ。夜明けが来てしまう。私の疑いを孕んだまま、明日に繋がってしまう。
もう何もかも終わらせたいのに。

「……生きたいよ。命を差し出すような健気さは、あたしにはないし、人間として生きる誇りもある。恋じゃないって言えばあんたが安心するならそう言うわ。言い訳でも嘘でも、何もあんたの為ってわけでもない。あたしにだって本当がなんなのか分かんないのよ。言葉にすればきっと完全に正しいものはひとつもなくて、」

リナさんの言葉はきっと全部、誠実なる真実でしか無くて、私の疑いは幼稚な疑問でしかない。

「だからあんたが安心できる言葉で言うわ。――恋でも憎しみでも、言葉にすれば同じことよ」

そう全部が嘘で、目に見えない何かは目の前にあってもなにひとつ見えない空間の中でぶつかり合って、目に見えないエネルギーを生んでいる。
でもそんな目に見えない不思議な作用に気がついたのは、とてもとても執念深く、見詰めていた私の単純な愛でした。








フィリリナは、ゼロリナあってこそだと思う。
で、リナがフィリアより精神的にずっと大人で、ほとんど同情とか純粋さへの懐かしさみたいな気持ちでリナがフィリアを見守ってるようなイメージ。
そういうのがもどかしくて、大きすぎて、憧れですらおこがましいって言うくらい神聖視したフィリアのエゴの塊みたいな想いを一方的にぶつけようとする関係にもえ。うちですら込み入った設定に分類されるカップリングです。

あと、シルフィールのは敬語だけど、フィリアのは口調であって敬語じゃない。変なこだわりですみません。

2006年01月21日(土)
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