苛苛苛苛苛苛苛【アメリナ】

本音チェッカーより。

written by みなみ




 リナが好きだ。それは多分、とても親密で個人的で、ひっそりと秘められるべき類の愛情として。


「でね、そんとき居たのが、前の町の依頼人だったんだけど、」

酔っ払ってご機嫌のリナはくすくす笑い。怒ったり笑ったりを繰り返すリナは無邪気で無秩序で、
仲間だけに見せる気を許しきった無防備さでゆらゆらしてた。

「ああ、そう。分かったから、そろそろ寝ましょ。飲みすぎよ。」

「待ってよ。こっからが面白いの。」

「もういいわ。明日、ガウリイさんにでも聞いてもらったらいいじゃない」

「何よアメリア、怒ってるの?」

きょとんとしたリナが目を覗きこんでくるのに耐えられなくて、腰掛けてたベッドにさっと滑りこむ。
リナは小さな声で文句を言いながら、隣にもぞもぞと潜り込んだ。
寒がりなリナ。冷え込む地域にくればこんなのはいつものこと。
胸元で寒そうに身を震わせたリナに腕も回さず、そこに何もないみたいな顔をして目を閉じた。
少しばかり途方に暮れたようなリナの声。

「アメリア……怒ってるの?」

「黙って寝て」

目も開けず、思いやりもなく言い捨てる。
リナは殊更不安になったように体を寄せて、もう一度名前を呼んだ。
わたしはその声に全身を粟立てながら、リナの腕を振り払って背を向けた。

「眠いのよ。それだけ。」

「まさか。ぜったい怒ってるでしょ。ねぇ、なんか気に障るようなこと言った?」

背後で起き上がる気配に、眉根を寄せる。耳元まで声が近づく。

「アメリア?」

60兆の細胞全部が詐欺にあってるような気にすらさせる、リナの甘い声。
普段絶対そんな声なんて出さないくせに。

「黙って」

「ねぇ、」

「黙って」

起き上がって、熱を持った柔かい体を組み敷いた。
やっと正面から見たリナは、アルコールのせいなのか潤んだ眼をしていて、わたしをぞっとさせる。

「なんでそんな、怒ってんの?」

ぎりぎりと締め付ける指の中で、リナの関節はぐにゃりと力なく、
抵抗なんて考えもしないように油断しきっていた。手首なんて容易く折れる。
体中痛めつけて、酷い目にあわせることだってできる状況で、リナはただ、
わたしが怒ってるかどうかと、その理由だけしか気にならないと言うのだ。どうかしてる。
何を根拠にしてわたしに信頼を与えるの?
わたしを突き動かす、わたしそのものと言ってすらいい、わたしの本当の気持ちも知らないで。

「……黙ってて」

仕草にも、眼差しにも、口にする知らない名前や国や湿度や天気や、何よりその声に、苛々、する。




今夜も薄い皮膚一枚の守りを盾に、内側で爆発しそうな感情を押さえ込む。


2006年01月20日(金)
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