テンゴクノカギ:3【アメリナゼロ】

次の日の昼前に、予想通り会議は開かれた。
予想通り退屈な会議だ。
アメリアは殆ど意識をそこに置いてはいなかったが、その無意識の耳が、ガウリイとゼルガディスの名前を聞いた。
どうやら昨晩、リナが居なくなった頃から彼らの姿も消えたらしい。
大事の前の小事だとでも言うように、その話はすんなり終わったが、アメリアにはその本当の意味が分かっていた。
彼らは行ったのだ、リナと共に。
そして自分だけが残された。




 リナが消えた。
その日を境に魔族の攻撃がやんだことに始めに気付いたのは、誰だったか。
時間はゆっくりと流れ、誰も、戦争の日々を口に出さなくなった。
セイルーンに集まっていた各国の王や兵士たちも、次第にそれぞれの国に帰り、王宮は急に静かになった。
戦争は終わったのだ。



何もかも終わったのだ。































本当にそうか。本当にそうなのか。
































 「……わたしだけがここに残された意味は、どこにあるの?」





 時々思う。
自分だけが残された、その意味を考える。
そして泣いた。
単純な答えが、複雑な感情を揺らし、どうしようもなくなって、ただ泣いた。




 「当然ね。わたしが裏切ることを、あなたは知っていたんだもの」




あの日終わってしまった。
全部の出来事が。




 「だけどわたしは、本当にあなたが好きだったの。
  そのことだけは、絶対に忘れないでね」




その言葉を口にしたとき、アメリアは何かを思い出した。
それがなんだったか、いつだったか。
思い出さなければいけない気がして、忘れてはいけなかった気がして、アメリアは必至に記憶を辿った。




 「絶対に忘れないでね」





あれはいつだった?
随分伸びた自分の髪に触れ、その感触が、また何かを思い出させた気がした。




 「あなたがこの国で繋げることは、あたしにも繋がる。
  そして、あなたがこの国で断つことは、あたしからも断たれるわ」





 時々思う。
自分だけが残された、その意味を考える。
そして泣いた。
単純な答えが、複雑な感情を揺らし、どうしようもなくなって、ただ泣いた。




 どうして気付かなかったのかが、今は不思議でならなかった。

 大切な人。どこまでも計りがたく、そして凄まじい人。




 「それならわたしは貴女の為に、いつでも門を開いておくわね」




 あの人は、走り続けているから。
 変わらずにおかえりと言ってくれる人が必要だった。




 「そして何処よりもこの国を豊かにして、一切の悪を断つ」




 それがあの人に安らぎを与え。
 たった一時でも、緩やかな眠りへ誘うならば。








 「いつか貴女が帰ってくる日の為に、わたしはいつでも此処にいるから」

























ペテロ、それはイエス・キリストのことを初めてメシア(救世主)と呼んだ人。
裏切ることを知っていたイエスが、それでも天国の鍵を託した人。
誰よりも弱い人の心を知って、誰よりも強くなって立ち直った不屈の人。





「ペテロは?あなたの言うペテロは誰?」
「……分からないの?」
そうしてリナはもう一度笑う。
だがその笑顔は、ユダ以外の誰も見てはいなかった。























あたしはあなたが、ペテロだと思う。



























大切な人、守りたい人、愛する人。わたしのイエス。

あなたの為に出来ることが、わたしにはある。





誇らしく翳す、テンゴクノカギ。




2006年01月19日(木)
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