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■ テンゴクノカギ:3【アメリナゼロ】
次の日の昼前に、予想通り会議は開かれた。 予想通り退屈な会議だ。 アメリアは殆ど意識をそこに置いてはいなかったが、その無意識の耳が、ガウリイとゼルガディスの名前を聞いた。 どうやら昨晩、リナが居なくなった頃から彼らの姿も消えたらしい。 大事の前の小事だとでも言うように、その話はすんなり終わったが、アメリアにはその本当の意味が分かっていた。 彼らは行ったのだ、リナと共に。 そして自分だけが残された。
リナが消えた。 その日を境に魔族の攻撃がやんだことに始めに気付いたのは、誰だったか。 時間はゆっくりと流れ、誰も、戦争の日々を口に出さなくなった。 セイルーンに集まっていた各国の王や兵士たちも、次第にそれぞれの国に帰り、王宮は急に静かになった。 戦争は終わったのだ。
何もかも終わったのだ。
本当にそうか。本当にそうなのか。
「……わたしだけがここに残された意味は、どこにあるの?」
時々思う。 自分だけが残された、その意味を考える。 そして泣いた。 単純な答えが、複雑な感情を揺らし、どうしようもなくなって、ただ泣いた。
「当然ね。わたしが裏切ることを、あなたは知っていたんだもの」
あの日終わってしまった。 全部の出来事が。
「だけどわたしは、本当にあなたが好きだったの。 そのことだけは、絶対に忘れないでね」
その言葉を口にしたとき、アメリアは何かを思い出した。 それがなんだったか、いつだったか。 思い出さなければいけない気がして、忘れてはいけなかった気がして、アメリアは必至に記憶を辿った。
「絶対に忘れないでね」
あれはいつだった? 随分伸びた自分の髪に触れ、その感触が、また何かを思い出させた気がした。
「あなたがこの国で繋げることは、あたしにも繋がる。 そして、あなたがこの国で断つことは、あたしからも断たれるわ」
時々思う。 自分だけが残された、その意味を考える。 そして泣いた。 単純な答えが、複雑な感情を揺らし、どうしようもなくなって、ただ泣いた。
どうして気付かなかったのかが、今は不思議でならなかった。
大切な人。どこまでも計りがたく、そして凄まじい人。
「それならわたしは貴女の為に、いつでも門を開いておくわね」
あの人は、走り続けているから。 変わらずにおかえりと言ってくれる人が必要だった。
「そして何処よりもこの国を豊かにして、一切の悪を断つ」
それがあの人に安らぎを与え。 たった一時でも、緩やかな眠りへ誘うならば。
「いつか貴女が帰ってくる日の為に、わたしはいつでも此処にいるから」
ペテロ、それはイエス・キリストのことを初めてメシア(救世主)と呼んだ人。 裏切ることを知っていたイエスが、それでも天国の鍵を託した人。 誰よりも弱い人の心を知って、誰よりも強くなって立ち直った不屈の人。
「ペテロは?あなたの言うペテロは誰?」 「……分からないの?」 そうしてリナはもう一度笑う。 だがその笑顔は、ユダ以外の誰も見てはいなかった。
あたしはあなたが、ペテロだと思う。
大切な人、守りたい人、愛する人。わたしのイエス。
あなたの為に出来ることが、わたしにはある。
誇らしく翳す、テンゴクノカギ。
2006年01月19日(木)
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