本と針金と天然【アメリナ】

天然ゼルリナにやきもきするアメリア。やきもきっていうかやきもちでもいい。
written by みなみ




 「どうしたのリナ、その傷」

本を取りに部屋に戻ってきたとたん、何より先にそう言ったのはアメリアだった。

「ああ、これ?」

やっぱ傷付いたのかぁ、と、ぼやきながら左頬に触れる。ひりひりする痛みと共に、ざらつく感触で細い筋が何本かできているのが分かった。

「治癒(リカバリィ)くらい自分でできるでしょ、痕が残ったらどうするのよ」

気付きながらほっといた素振りを見てとって、心配顔から呆れ顔になる。

「これくらいじゃ痕にはなんないわよ。それに、いちいち治癒使ってたら免疫力下がりそうじゃない」

まだ何か言い出しそうなアメリアから目を逸らし、荷物をあさる。確かこの辺に……。

「最初の質問に答えてないわ、リナ」

勝手に会話を切り上げようとしたのが気に入らなかったのか、少し怒った声だった。

あたしは目当ての本を見つけて立ち上がる。

「ゼルの髪よ」

「ゼルガディスさんの……髪?」

意外な答えに眉を寄せる。

「そ。同じ本を読んでて、ちょっと夢中になり過ぎたのよ。あいつの髪、針金じゃない」

言ってさっさと部屋を出ていこうとすると、まだ何か文句があるのかアメリアが慌てて呼び止めた。

「ちょっとリナ、なに考えてるのよ!」

「え、なにって……明日行く洞窟の検証とかやっとこうと思って」

「そーじゃなくて!」

首を傾げるあたしにアメリアは腰に手を当てて、ひたとあたしの眼を見据えた。

「いい? 仲間とは言え、ゼルガディスさんだっていつ狼になるか分からないんだからね、そんな無防備じゃダメよ」

まぁたアメリアの天然ボケが始まった。あたしは溜息つきつつ、

「あのねぇアメリア。ゼルは石人形(ロックゴーレム)と邪妖精(ブロウ・デーモン)の合成獣(キメラ)であって、人狼(ワーウルフ)は入ってないわ。いい加減覚えてよね、ガウリイじゃあるまいし。」

あたしの丁寧な解説に、しかしアメリアは何故か頭を抱えて、

「リナこそいい加減なんとかならないの、その天然ボケ……」

心外な。ガウリイほどではないが、アメリアにも言われたくはない台詞である。

「とにかく、ゼル待たせてるから」

「……知らないからね。何かあっても。」

何があると言うんだか。

あたしはあてつけがましい大きな溜息を背中に聞きながら部屋を出た。



2006年01月13日(金)
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