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■ 田園の幸福【ゼロリナ】
ゼロリナ。 遙か昔同じ混沌から産まれた兄弟への郷愁に似た想い。
written by みなみ
金色の幻影のようにゆらゆらと揺らめく穂波を見ながら、彼女は立ち尽くしていた。 昼下がりの、あまりにのどかなその光景は、自分には相応しくないなと、彼女は少し思うけれど。 淡い水色の風が彼女の赤毛に絡んで揺れるそのさまや、田園で微笑む素朴な横顔は、そのまま切り取り額に収めてなんの不思議があるだろう。 もう随分長いあいだ、帰ることのなかった故郷の土の匂いを思いださせる景色。心の内で、ずっと絶えることのなかった郷愁を感じた。 「きれい」 豊な実りを、彼女は素直に賞賛する。 激しく熱く生きる少女とは対照的に、ゆっくりと時間をかけて色づく穏やかな命たち。形の違う生命たちが、こうして関わりをもって生きる、理の不思議。 「綺麗ですね」 風鳴りか穂の擦る音のような自然な音の流れに、リナは振り返った。 佇んでいたのは、彩りの柔らかな景色の中でひとり、色の足りてないモノクロの青年。 ぽっかりと開いた穴のように、唐突な深みだけがひどく眼を惹いた。 「……魔族が、何言ってんのよ」 自分の声も、何かの色になって空気に溶け込むような錯覚を覚えながら、リナが言う。 ゼロスは静かに笑った。 「魔族だって、綺麗なものは好きですよ」 互いに手を伸ばせば指先に触れるだろう距離。 境界線を持たない水彩画のような空気が、その狭間を埋めていた。 「あなたも綺麗です」 甘く優しい声に、リナは少しうつむいて笑う。 失笑するように、からかうように、頬を染めることすらなかったが、素直に歓んでいるようにも見えた。 向かう先の違うひと。 形の違う命。 望む結末は違っても、同じものを見て眼を細める過程。 禁忌を犯すというほど情熱的でもなく、細い糸を弾くほどの、微かな慈しみ。 けれど愛している。 「あんたもきれいよ」
2006年01月06日(金)
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