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■ 悪戯ハロウィン【アメリナ】
「ねえ、お菓子あげるからイタズラさせてよ」 「なによ、それ」 「そういう風習があんのよ、うちの実家に。」 「ゼフィーリアにはないはずよ。そんな風習。」 世間知らずと言われようと、仮にも王族。地理や歴史は叩き込まれている。まして隣国のことともなれば、土着の風習ぐらいは把握しているのよ。 リナは少し面食らって、それから視線を泳がせた。 「……あたしの家の半径200m以内にはあったわ」 「はいはい」 負けず嫌いは大人しく勝たせておくに限る。わたしはわたしで大人ぶって、リナの主張に耳を傾けた。 「で、何をしたいの?」 「セイルーンの印籠貸して」 「印籠を?」 印籠にはわたしの身の証としてセイルーンの印章が入っている。当然、セイルーンの権威が届くそれなりの町なんかに行けば、一般には公開されていない書庫まで入れたりもする。お願いされればよっぽど無茶でない限りダメとは言わないし、また何か読みたい本でもあるなら、普通に言えばいいことなのに。 「何に使うの?」 「ちょっと貸して欲しいだけ」 まあ滅多なことはしないだろうと思って、軽い気持ちで手渡す。 リナは喜んでいそいそペンを取り出すと、印籠いっぱいに「リナ=インバースの。」と書きつけた。 「って何してるの?!」 「いやぁ、持ってたら便利だろうなぁと思って」 ほがらかに微笑みながら言うリナから印籠を取り上げて、服の裾でごしごし文字を拭った。白い巫女服が真っ黒になったけれど、なんとか文字は綺麗に落ちた。 「あー」 非難がましく言うリナに向き直る。 「あのねぇリナ! こんなものあなたが持ってたって仕方無いでしょう! 王族の詐称は死刑よ、死刑。読みたい本の為に死んでもいいの、あなたは。」 「まぁそりゃそうね」 「何を呑気な……。まったく、リナのイタズラは心臓に悪いわ」 印籠を鞄の中にぎゅうぎゅうとしまい込みながら、溜息をつく。リナはどこまで本気なのか、残念そうにしてみせたけど、イタズラの成功に満足してるようにも見えた。 わたしは軽い意趣返しのつもりで、リナの方に手を差し出す。 「イタズラさせてあげたんだから、約束通りお菓子をちょうだい」 「いいわよ」 頷くと同時に、さっと手際よくわたしの唇に口付けた。 目を閉じる暇もなく、ふわりと髪をなびかせながら。 「…………〜〜ッ!」 「甘いでしょ?」 にやりと笑う、その顔の憎らしいこと! 「……徹頭徹尾イタズラじゃない。」 きっと迫力を著しく減退させているだろう赤い顔で、低く呟き睨んでみせる。リナは機嫌良さそうに笑って、わたしの手を引いた。触れ合うその手が妙に熱い。そーゆーことね、この酔っぱらいめ。 文句の言葉を思案してるうちに、引きずられるまま隣の部屋――ガウリイさんとゼルガディスさんのいる部屋――の前で足を止める。ノックのあとにリナがこう言った。
「trick and treat!」
最初から素直にそう言えばいいじゃない。わたしは思わず吹き出した。 扉の向こうで目を丸くしているだろう2人に、自分の八つ当たりも兼ねてどんなイタズラをしてやろうと考えながら。
2006年01月02日(月)
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