都都逸【美奈うさ】

添うて苦労は覚悟だけれど 添わぬ先からこの苦労



 「ねむい」
誰も口にしなくても同じ気持ちでいただろう頃合、深夜2時。
変身を解けばパジャマ姿もちらほらあって、なんて仕事熱心と呆れたような苦笑い。
あたしの隣であくびをしている先刻の発言者も、当然のようにピンクのかわいいパジャマ姿。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうね」
「あーあ、悪の組織も夜は休めばいいのに」
「そんな規律正しい悪の組織って、逆に見習いたいわ」
「ふわぁ」
簡単な挨拶を交わしてそれぞれが夜の道に消えていく。
あたしも帰ろうと身を返したところで袖を引かれた。
「……ど、どうしたの、うさぎちゃん?」
戦ったばかりのまだ昂ぶっている神経に触れられて、妙にどきりと心臓が高鳴る。
振り返って見た顔は、そんなのおかまいなしにのんきな顔をしていたけれど。
「お願い、美奈子ちゃんち泊めて」
「はぁ?」
「こっからなら美奈子ちゃんちの方が近いじゃん。もうだめ。むり。ねむい。」
「ちょ、ちょっと!」
言ってるうちにふらふらとよろけて、今にもアスファルトをベッドに寝てしまいそう。
そんな友人を放っておけるほど薄情ではないつもりだけど、こんな昂揚した気持ちのところに飛び込んでくる獲物相手に平静を繕う自信もない。
ていうか少しは危機感持ってよ。
あたしはあなたが好きなんだよ?
「ダメ?」
「……いいけど。眠いならなおさら家に帰った方がいいかも……」
「え? なんで?」
きょとんとする顔は無邪気で、邪気だらけの自分がなんだか恥ずかしくなる。
いやでも、こちとら健全な女子高生でして。
そういう欲求があっても罪はないでしょ?
「それでもいいなら、泊まりにくる?」
「うん、行く」
さっきの疑問は一瞬で忘れて、ぱっと笑顔になる。
眠くてとろけた笑顔で腕に絡んで、深夜の道をぴったり寄り添って帰る。

そうして辿り着いた自分の部屋の狭いベッドの上。
あっと言う間に眠って、隙間なく寄り添ってくるお姫様を抱いて。
自分の自制心に半ば呆れながら、これからの苦労を思った。


2003年03月02日(日)
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