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■ 都都逸【レイうさ】
重い体を身にひきうけて 抜くに抜かれぬ腕枕
「ひょーっ!」 おかしな掛け声で隣に転がってきたのは、悲しいことに我が主。 「ちょっとあんた、何してんのよっ!」 「なにしてんのって、今の見てなかったの?! 一目散に敵にぶつかっていって当たって砕けたのっ!」 「臆面もなく言ってんじゃないわよ!」 「そこーっ、夫婦漫才はあとでにしなさい!」 主をかばって前に立つリーダーの一喝で、わたしもハッと我に返る。 そうよ、こんな馬鹿構ってらんないわ。 「ちょっとマーズ、今なんか心の声が聞こえたっ!」 うしろで騒ぐ声はもちろん無視。あんたはそのまま転がってなさい。 その方が気兼ねなく戦えるわ。 「さっき勢い余って夫婦漫才とか言っちゃったけど、あれは言葉のあやだからいい気にならないように!」 「いい気ってなによ」 戦い終わって一息ついたわたしの前に、わざわざ仁王立ちしてきたのはもちろん美奈子ちゃん。 なんでこの子こんなに元気なのかしら。 何もしてないうさぎは縁側に寝転がってぐったりしているのに。 まぁ、あれはあれで体力無さ過ぎるって話だけど。 「うさぎちゃんと夫婦になんて、なれるもんならあたしがなりたいわよ」 「……あんた、誰と会話してるの?」 「でもさぁ、悲しいことに運命はそれを許さないのよね。ただひとり許されてるのがあのむっつりプリンスだってんだから、ほんとこの世は諸行無常だわ」 「めんどくさいから突っ込まないわよ、わたしは。」 「あれ、ほんとにお疲れなの?」 「当たり前でしょ。あんたみたいな体力馬鹿と一緒にしないで。こんな早朝から一戦交えたあとで、どうしたらそんなくだらない話題に花を咲かせられるって言うのよ」 「うわー冷たっ。炎の戦士のくせにパッションが足りないわ」 「その無駄なパッション、少しは勉学に向けたら? あと、早く帰らないと遅刻するわよ」 「げげっ、もうそんな時間?! 早く言ってよ!」 言うが早いか、解いたばかりの変身をもう一度纏って、美奈子ちゃんは明るくなり始めた空に消えていった。 ある意味職権乱用よね、アレ。 「さて、と」 当然のように、亜美ちゃんとまこちゃんはとっくに帰っている。 置き忘れられたぬいぐるみみたいに、縁側に寝そべっているうさぎ。 「うさぎ」 「……んー……」 ぼんやりした声。かろうじて意識を保っていたらしい。 「……帰んなきゃ」 だるそうに言って、枕にしていた自分の腕に顔を埋める。理性と欲求の葛藤が伺えた。 「部屋、入れば?」 「…………」 沈黙。 怪訝そうにあげられる視線。 「レイちゃん? 今なんて言ったの?」 「部屋、入れば、って言ったけど?」 「……偽者?」 「なんでよ」 眉間にしわ寄せた疑い顔に、こっちは自然と笑顔になる。 「だって、レイちゃんがそんなこと言うはずないもん」 「だからなんでよ。わたしも今日は疲れたし、眠いし、学校行く気しないから、あんたもサボっちゃえば?」 「……怒られるよ」 「誰に?」 「亜美ちゃん、とか」 「かもね。でも、とりあえず今は寝られるわよ。腕枕つきで。」 どうする?と聞き終わる前に、うさぎのふたつ返事が返ってきた。 そう言った手前、しびれて麻痺して動かなくなっても、抜くに抜けない腕枕。
2003年03月03日(月)
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