金魚花火【1】

パラレル亜美うさ。(ていうか総愛)
「何度となく繰り返した転生のうちのひとつ」です。

written by みなみ




 剣道部の地区大会が終わったのが4時半。片付けと挨拶を済ませて体育館を出たのがなんだかんだで5時過ぎで、開放感で異様なハイテンションを見せた打ち上げ→カラオケ大会が終わったのは、時計がぐるっと一回りした朝の5時。それからマックで朝食を食べたらさすがに多少胃がもたれた。現役高校生の体力恐るべしね、と大人びた笑いの彼女から電話がかかってきたのはもうすぐで家につく所だった8時前。ちがう学校に通う彼女は、4通のメールと2回の着信をたったの今まで無視していた事を優しく責めて、僕を呼び出した。
不調だと言う彼女のパソコンを直して再び家の前に辿りついたのは、太陽が激しく輝く午後1時だった。
ブレザーだけを脱いでベッドに倒れこむと、僕はすぐに眠りについた。

 「はるかお兄ちゃん、起きて」
深い深い眠りの奥底に、声はやんわりと届いた。
薄目を開けて、今年の春中学にあがったばかりの妹を見遣る。薄桃色の浴衣が、カーテン越しに流れ込んでくる黄昏た藍色に映えていた。
ふっと微笑んで身を起こし、かわいい妹の頭に手を伸ばす。そのままいつものように頭を撫でようとして、綺麗に結い上げられた金髪に思い留まった。代わりににっこりと笑う頬に手を添える。
「きれいでしょ?」
「うん、どこのお姫様かと思ったよ」
こんなことばかり言ってるからシスコンの肩書きを頂戴するんだぞ、と、そんな事を言う自分が居るけど、本当なんだから仕方無い、ともうひとりの自分が言う。僕は後者の自分の意見に大賛成だった。
「うれしい。ね、聞こえる? 夏祭り、もう始まってるよ」
「了解。それじゃあ、行こうか」
どんなに疲れ果てて眠ったところだろうとも、どんなに心地良い睡魔に身を委ねていたところだろうとも、可愛い妹の声にねだられれば、そのわがままこそが何より心地良いに決まっている。
僕は脱ぎ捨ててあったブレザーを掴むと、恋人のような仕草で妹の手をとった。


 気をつけてねと見送った母親から受け取った千円札を右手に、気をつけるんだよと念を押した僕の手を左手に握り締めて、地上に落ちた星空のような祭りの道をうさぎは歌いながら歩いていく。
 夏休みももう終わると言う頃にやっとで始まる地元の祭りが、うさぎは一番好きだった。
別々の中学に散っていった、少しだけ懐かしい顔ぶれが次々とうさぎの名前を呼ぶ。たったの数ヶ月分だけど、幼かったうさぎの友達はみんな大人になっていた。
「なんだかさみしい」
小学生のときとはどこか違う友達を見送るうさぎの横顔に、僕も同じ感想を抱く。
「そうだね。」
きみがきれいになっていくことが、僕はすこしさみしいよ。
はしゃぐ人の群れの中のいくつもの背中と横顔と笑顔を眺め、握る手に力を込めた。
「でも、きっとステキなことなんだよね。時間が過ぎてくことって。」
――まいったな、妹の方が大人だ。
僕が内心で自嘲するのをよそにうさぎはぱっと表情を変え、僕の手を引いて走り出した。
「笑って、お兄ちゃん。お祭りだよ!」
駆け出す妹の肩越しの笑顔に、いつの間にか強張ってた自分の頬がほどけていくのが分かる。
 大好きなかわいい妹。きっとその笑顔で、いつか誰かを救うだろう。


2003年02月01日(土)
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