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■ 空に浮かぶ森【10】
「どうして子供ってこう、自分勝手な行動を取るのかしら? 理解に苦しむわ」 普段の慎み深い装いもどこへやら、乱暴な足取りのマーズ。 向かうのは、突然何かに驚いた顔をして駆け出していった少女の向かった先だ。 「そう言いつつ、律儀に追いかけるんだよな、アンタって」 「ジュピター、あんまりマーズに突っ掛かると、後々厄介だからやめてくれる?」 からかうようなジュピターに、呆れた口調のヴィーナスが制止をかけて、それに被さるようにマーキュリーが小声で呟いた。 「貴女が思っているほど子供とは、私は思わないけど」 本当に小さな呟きだったが、神経の鋭敏なマーズにはしっかり聞き取れた。眉を顰めて振り返り、マーキュリーを見据える。 「どうしたの? 貴女らしくないわね。まさか貴女まであの子に肩入れするの?」 「そんなんじゃないわ。客観的な意見よ。あの子は筋道を立てて話していたし、受け答えもしっかりしていた。貴女の言うところの話の通じない煩いだけの子供ではなかったわ。……まあ、感情的になっている貴女には分からなかったかもしれないけれど」 マーズの視線を受けることもなく、脇を足早に通り過ぎながら言い放つマーキュリーに、ジュピターとヴィーナスが視線を合わせて驚いた顔をする。今日だけで既に二度目の「らしくない」態度をとるマーキュリーと、苛立ちを通り越して冷静になったマーズが足を止めて対峙した。マーキュリーの静かだが攻撃的な雰囲気と、マーズのひどく冷静な怒りは、どちらも青い炎を連想させた。 「そう言うのを肩入れと言うのよ、マーキュリー。姿形がどんなに似ていたとしても、あれはプリンセスじゃない。忘れたの? 以前にも顔を切り裂き縫い合わせ、プリンセスと同じ相貌を造り上げた愚かな犯罪者が、クイーンの御命を狙ったことを」 「覚えているわ。私が捕らえ、貴女が焼き尽くした」 「それならその前例に倣って、あの子をもう少し疑って掛かったらどう?」 「容易く信じることは愚かよ。かと言って……疑い続けるのも不毛だわ。リーダーも、サブリーダーである貴女も、彼女の処分を保留とした。私はそれに従うだけ」 「自己主張があるんだかないんだか……。私、貴女のそう言うところ、苛々するのよね」 「私も、貴女のその直情的なところが意に染まないわ」 普段、同じ意見を持って団結することが多い反面、意見が対立したときは周りの温度を変えるほどに辛辣な言葉の応酬となる。それを重々承知しているヴィーナスはようやく我に返り、慌てて2人のあいだに割って入った。 「こらこら、ケンカしないでってば」 鋭い眼差しを交し合う2人を交互に見て、落ち着くように促すヴィーナス。 「そんなことをしてる場合じゃないでしょ?」 「……プリンセス?」 「そう、今の最優先事項はプリンセスを見つけることであって……え?」 半ば呆然と呟いたジュピターの視線の先に気付いて、ヴィーナスが間の抜けた声をあげた。
2003年01月13日(月)
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