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■ 空に浮かぶ森【2】
「亜美ちゃんたち、追ってきてる?」 「あの2人なら大丈夫よ。それより今はうさぎを見つける方が先決でしょ? あの子ひとりなんて、物騒極まりないわ」 レイのうさぎへの信頼と、まことと亜美に対する信頼との差は雲泥だった。 言い返さなかったところを見ると、美奈子の中でもその差は歴然だったらしい。 体力の消耗を防ぐために無駄な会話をやめた2人のあいだを、自分と相手の弾む呼吸だけが支配した。 そのままでしばらく走っていると、2人の正面に一際大きな樹が現れた。根元は抉れ、大人が数人入れそうなくらいの空洞になっている。 その樹を軸に、レイと美奈子はそれぞれ右と左に曲がった。 「え? ちょ、ちょっとレイちゃん、どこ行くの!? うさぎちゃんはこっちでしょ!」 自分とまるっきり反対に走っていくレイを振り返り、慌てて美奈子が呼び止める。 「はあ!? なに言ってるの、こっちよ、こっち!」 苛立たしそうに立ち止まったレイも、自分の進行方向を指差して美奈子に怒鳴り返した。 「待って、落ち着いてよ、レイちゃん。感じないの? こんなにはっきり気配がするのに」 「美奈子ちゃんこそ、どうしたのよ? うさぎを忘れたわけじゃないでしょう?」 自分が今感じているものを信じて疑わないレイと美奈子は、互いに一歩も譲らず、相手に対しての不信を募らせていった。 不毛な言い争いになることが目に見えてきたとき、まことと亜美が追いついた。 「どうしたんだよ、こんなところで。 うさぎちゃんは見つかったのか?」 「それがねー、ちょーっと今レイちゃんと意見が対立してるとこなのよね〜」 視線を外さないレイの断固とした態度を見て、美奈子は仕方なく「別行動」と言う言葉を思い浮かべ口にしようとする。 が、それよりも先に、聞きなれた泣き声が森に響いた。 「あンの超音波みたいな泣き声は……」 呆れと安堵を含めた声と共に、真っ先にレイが走り出した。そのあとに続きながら、美奈子はボソッと呟く。 「ほら、あたしのが合ってたじゃん」
2003年01月05日(日)
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