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■ 猫になりたい【4】
きっと上手くやれる。そう思う自分が楽観的すぎるんだろうか。 ビビが仲間になることが決まったとき、ビビはお姫さまできっと免疫がないだろうから私たちのことは内緒よと、ロビンには釘をさしておいたし、何よりロビンにそんなことを言いふらすような自己顕示欲はない。 ロビンには秘密よ、絶対からかわれるから。あのひと、意地悪なの。とかなんとか、ビビにも念を押して、これで大丈夫――なんて、やっぱり私は楽観的かもしれない。 ふと視線が触れて、ロビンが笑った。 またこんなときに限って咲きたての薔薇みたいに柔かい笑顔で、激しく胸が痛む。 罪悪感や後悔と言うにはぬるすぎる、多分、恐怖にも似ていた。 「ミス・オールサンデーのこと、許すとか許さないとかじゃないけど、ナミさんがそうしろと言うなら笑って話せると思う」 「え、」 思考の隙間で聞こえた言葉に驚いて、振り向いたときにはビビはもう歩き始めていた。待ち合わせでもしてたみたいな素振りで、ロビンまでビビに向かって歩いてくる。 え、え、ちょ、ま、待って、心の準備が……! 気配を察したのか、バカ騒ぎのまま、それでも間違いなく全員の意識が集う。2人が落ち合う船の中心へ。 「ミス・オールサンデー」 「お久しぶりね、ミス・ウェンズデー」 慌てて追いすがった私はふたりの間に立って、何か取り繕うべきかどうかとあたふたしたけれど、2人は微笑みあって手を差し出した。 「これからよろしくお願いします」 「こちらこそ」 利き手と利き手、組み合う指、どちらも長くて華奢で、夜毎この肌に触れた指だなんて唐突に思って、一瞬だけ目眩がする。何を考えてるんだ、私は。 「部屋はひとつで、ベッドもふたつしかない。仲良くしないと、寝る場所が無くなってしまうものね」 くすくす笑うロビンに、ビビも涼やかな声。 「ええ、仲間だもの、分け合わないと。」 あ、それは、確かに重要な問題だわ。寄せ合わせてあるふたつのベッドは、女3人で寝るには充分な広さだけど、敵同士で寝るにはパーソナルスペースが無さ過ぎる。睡眠は生活で欠かせないもの、快適な場所として確保しておく方がいいに決まってる。 冷静さを取り戻す為につらつらそんなことを考えているうちに、あれ、と思うほど簡単に2人は打ち解けたようで、散々気をもんでいた肩から一気に力が抜ける。 周りも安心したように、またいつものバカ騒ぎの宴に戻っていた。 所詮はこの船のクルー、我が麦わら海賊団の一員になろうなんてやつは、みんな基本的に楽観主義者。 乗り合わせた以上は上手くやってくれるのだろう。 人心地ついた私は、すっかり覚めた酔いを取り戻す為、樽をキープしてるゾロの方に目をやった。 「ゾロ、まだ中身残ってる?」 声をかければおう、とコップを掲げてみせる。私はロビンとビビに向き直り、同じようにコップを軽く掲げた。 「じゃあ向こうで飲んでくるわ。夜は始まったばかりだし、楽しみましょ」 微笑みかければ、2人も同じ仕草で応えて笑ってくれた。
「大丈夫かよ、放っておいて」 この男ですら気を遣ってたのかと、ナミは無遠慮に酒を煽るゾロを見た。 「逆にいない方がいいかと思って。ほら、実際のとこ2人の関係は2人にしか分からないんだし、言いたいこととか、第三者がいない方が言いやすいんじゃないかしら」 「そんなもんかね」 勘のいい男は、昔ならまだしも2人が今現在論じたい問題に関して、ナミは第三者ではないだろうなんて思いながら、結局面倒くさがって口には出さない。それこそ第三者が口をはさむ問題じゃないからだ。 「まあ、精々頑張れ」 ガチンと乱暴に叩きつけたふたつのコップから、溢れて零れる琥珀色。予感に似ていた。
意味ありげに探りあう一見穏やかなファーストコンタクト。ふたまたかけといて楽観的すぎるナミさん。 これからを示唆するゾロ氏の曖昧な介入。と、放任。
2000年02月19日(土)
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